新生Imagination Technologies、RISC-V CPUとGPUのIPで勝負
英国のIP(Intellectual Property)ベンダーの一つ、Imagination Technologiesの経営陣が来日、Imaginationの変貌ぶりを伝えた。CPUはRISC-V、GPUはかつての主力製品POWERVRのポートフォリオをローエンドからハイエンド、さらにAシリーズからDシリーズへと進化させている。AIはCPU+GPUがカギとなる。応用もかつての主要1社から多岐に渡る。
図1 来日したImagination Technologiesのメンバーたち 左から右へ順に、同社Chief of InnovationのTim Mamtora氏、同社Product Management担当VPのShreyas Derashri氏、マーケティング担当VPのVictoria Rege氏、日本法人イマジネーションテクノロジーズの代表取締役の内村浩幸氏
Imagination Technologiesが大きく変わった。かつてモバイル用GPUがAppleのiPhoneに採用され、大きく飛躍したが、Appleが方針を変え、GPUとPMICを自社開発すると宣言したため、大きな顧客を失った。しかしAppleは結局うまくいかず、Imaginationや、PMICのDialogのエンジニアリングチームをAppleに連れて行った。Dialogはその後ルネサスエレクトロニクスの傘下に入り、Imaginationも2017年に中国資本となった。現在の経営陣は、バックに中国政府が保有する中国のファンドの影響を警戒しながら企業運営しているようだ。
新生Imaginationは、脱Appleという1社依存を弱めるためもっと広いカスタマのいる分野へシフトしてきた。ボードメンバーはQorvoやIntel,Broadcomなどから参加しておりCPUとGPUに注力し、どちらもコンピュート中心に変えた。以前のGPUはモバイルゲーム中心でグラフィックス機能に力を入れてきたが、新生Imagination はコンピュートするためのGPUという位置づけに代わった。ただし、これまで同様の消費電力効率だけではなく、面積効率も上げる方向に変わった。エッジAIは大きな狙いの一つだ。次のトレンドはコンピュートがデータセンターだけではなくエッジでも増えてくる、と同社Chief of InnovationのTim Mamtora氏は述べる。特にクルマのADAS(先進ドライバー支援システム)やデスクトップでの計算能力のアップだ。
CPUとしてRISC-Vを推進する。これはオープンソースのアーキテクチャで米国と中国を中心に伸びており、さらに欧州でもCodasipのようなツールベンダーも出てきている。Imaginationは、RISC-Foundationの中心メンバーの1社として、AMDやGoogle、IBM、Intel、Nvidia、Qualcommなどと共に活動してきており、2023年5月に発足したRISC-V向けのソフトウエア開発を促進するRISE(RISC-V Software Ecosystem)でも積極的に活動しているという。
2024年4月になり最初のRISC-VアプリケーションプロセッサIP「APXM-6200」をリリースした。性能と消費電力で競合するArmのCortex-A55やA53と比べ、面積はそれぞれ40%、25%小さい。さらに、A510に対して1/3しかないという(図2)。このため安いコストで提供できるとしている。
図2 IPの面積が小さくコストを安くできる 出典:Imagination Technologies
主な仕様は以下の通り;
64ビット、11段パイプライン、2命令発行、最大4コア集積、Linux/Android対応、ECC(誤り訂正))付き128KBの命令キャッシュとデータL1キャッシュ、ECC付き1MBのL2キャッシュ、アクセラレータ用コヒーレンシポート(ACP)有など。
性能や、性能密度(効率)と比べてもArm Cortex-Aシリーズよりも高いとしている(図3)。
図3 性能や効率もArmCortex-Aシリーズよりも高いという 出典:Imagination Technologies
昨年リアルタイムのCPU「RTXM-2000」を出荷したが、今年はこの新製品、さらに高性能版のCPUも間もなくリリースする予定だという。自動車向けのCPUの製品ポートフォリオも準備中だとしている。
GPUでも製品のポートフォリオとして(図4)、コスト効率の良いXE/XMファミリ、レイトレーシング機能を搭載する高性能なXTファミリ、高性能でDirectXをサポートするXDファミリ、そして機能安全を取り込んだXSファミリを各世代ごとに揃えている。各世代は、2019年のAシリーズから 2020年のBシリーズ、2021年のCシリーズ、2022年のDシリーズと毎年更新してきた。
図4 GPUとCPUの製品ポートフォリオ GPUは世代ごとにAからDまでのシリーズがある 出典:Imagination Technologies
Imaginationは、他のRISC-V IPの競合メーカーと比べても、CPUとGPUの両方を提供しているのはImaginationしかない、と同社Product Management担当VPのShreyas Derashri氏はその差別化を強調する。CPUとGPUをうまく使い分けるAIのワークロードに向いたライブラリも提供していく。
狙う市場は、セットトップボックスやテレビなどの民生と、産業用で、さらにその先にはウェアラブルOSなどもサポートしていく。また、製品の種類としてはまずマイコン市場を狙い、組み込み系などでArmからの意向を進めていく作戦だ。
今回のIPは、28/16/10nmプロセス用途での性能と消費電力、コストでの優位性を売りにするが、準備中の高性能版は5/3/1.8nmプロセスノードを狙っていくとしている。AI向けにはこれまでは専用のAIアクセラレータが多いが、同社は高性能化と低精度(8ビットや4ビットなどの)とのバランスを配慮したフレキシブルな構成を考えているという。
最後にImagination Technologiesは2017年中国のファンドに買収された。その後のいきさつは参考資料1でフォローされている。中国資本のCaynon Bridgeは本社をケイマン諸島に移し米国政府の影響を避けようとし、さまざまなバトルが繰り返された。現在でもボードメンバー6人中、Caynon側を2名に抑えているが、現在のボードメンバーたちは中国政府を警戒しながら企業運営しているようだ。
参考資料
1. "How Chinese state-backed investors avoided US investment screening to acquire Imagination Technologies", Datenna Resources