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Arm、クルマのデータセンター化に向けIPコアを充実

Armは3週間ほど前にデータセンター用のハイエンドのCPUコア「Neoverse N3/V3」シリーズのCPUをリリースしたが、すでにクルマグレードのNeoverse V3AE IP製品を提供したことを明らかにした。このIPは、ASIL-B/DやISO26262など車載仕様を満たし、このシリーズだけではなく、Automotive Enhancedシリーズとして、Cortex-A/R/Mなどのシリーズにも導入する(図1)。

Introducing new, leading-edge additions to the AE portfolio / Arm

図1 Armの自動車向けCPUをシリーズ化、SD-Vに対応 出典:Arm


Neoverse V3AE製品は、Nvidiaが昨年発表したクルマ用コンピュータDRIVE ThorチップのCPU(図2)に使われている。この製品のAEはAutomotive Enhancedの略である。これまでのArmの車載用CPUでは高性能だったCortex-A78AEよりもコア当たりの性能が50%以上増加しているという。NeoverseシリーズはCortex-Aシリーズよりも高性能でこれまではデータセンターを中心に使われてきた。MicrosoftやAWSのデータセンターで使われているGravitonなどのSoCに入っているという。そしてNeoverse 1から2そして最近3シリーズが登場した。


Nvidia Drive Thor / Nvidia

図2 Nvidia Drive Thorチップ 出典:Nvidia


車載グレードのCPUコアは最高性能のNeoverse 3AEシリーズだけではない(図1)。Cortex-A00AEシリーズやリアルタイムのCPUコアとしてのCortex-R00AEシリーズに、さらに安全性マイコン向けの Cortex-Mシリーズ、そしてGPUであるMali AEシリーズ、画像処理プロセッサ(ISP)であるMali AEシリーズ、System IP AEシリーズなども用意している。

Arm製品の中で高性能なCPUコアは64ビットのArmv9シリーズでこのCortex-A720 あるいはCortex-A520シリーズとして展開されてきた。車載用としてこのシリーズでも高性能なCortex-A720AEとCortex-520AEも車載向けCPU IP製品ポートフォリオに加えている。

Armはこれまでのデータセンター向けではArm Computer Subsystems(CSS)と呼んできたが、車載用途でもArm CSS for Automotiveシリーズと呼んでいる。

これからの将来のクルマはSD-V(Software defined Vehicle)になっていくため、そのためのオープンスタンダードベースのアーキテクチャを定義しようとしてArmはSOAFEE(Scalable Open Architecture for Embedded Edge)コンソーシアムを組織化した。2025年にはクルマ向けのチップレットが登場してくると見ている。これに備えるため、ArmはSoC開発手法で提案されてきた、ハードウエア(HW)とソフトウエア(SW)の同時開発を提案している。

HWとSWの同時開発とは、SoC設計工程の中で、最初の論理設計が終わりRTL(Register Transfer Level)出力された時点からSoCのソフトウエア開発を始めるというもの。従来ならSoC設計を回路レベルまで終え回路やタイミング設計やチップ製造を確認してからソフトウエア開発に入っていたが、HW/SWの同時開発はSoC設計・製造の最後まで待たずに、論理設計が終わった時点でソフト開発を始める。SoCはRTLのソフトウエアレベルでSoCのCPUなどが完成しているとみなすため、Armはこれをバーチャルプロトタイプと呼んでいる。

このバーチャルプラットフォームは、SoCチップが出来てからソフトウエアを開発しないため、SoCの開発期間を短縮することができる。これを車載グレードにも導入、開発スピードを上げていく。この背景にはクルマに使われるECUをまとめるためのドメインコントロールやエリアコントロールなどクルマに使われるコンピュータが高度化し、複雑になるため開発期間はますます長くなってしまう。クルマ産業といえどもコンピュータ化(SoC化)が進むほど開発が遅れては何にもならない。SoCが大量に入ってくる時代だからこそ開発スピードを上げなければSoC化できなくなる。


Arm Automotive Computr Subsystem Exapmle / Arm

図3 Automotive CSSの実例 UCIeインターフェイスを2本設けているのは冗長化に対応した想定である 出典:Arm


Armはドメインコントローラにせよ、エリアコントローラにせよ、SoCには仮想化や冗長化(図3)が入り込むため、開発スピードはSD-V時代には欠かせなくなる。Armが組織化したSOAFEEコンソーシアムはソフトウエアの開発スピードを上げるためのオープンスタンダードを取り込んでいるのである。

(2024/03/19)
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