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Infineon、合併したCypressのpSoCの名を残しシリーズを再定義

pSoCと言えば、簡単な制御に使う8ビットマイコン、というイメージだった。開発したCypress SemiconductorがInfineon Technologiesに2020年に買収されて以来、pSoCの影は薄くなったように思えていた。ところがどっこい。エッジAI向け、SiC/GaN向けの電力制御向け、Wi-Fi/Bluetoothコンボを内蔵したマイコンなど新MCU(マイクロコントローラ)シリーズとして一新させた。

Sam Geha, Infineon Technologies

図1 Infineon Technologies ICW(IoT、Compute & Wireless)事業担当の上級VPのSam Geha氏


今もpSoC(Programmable System on Chip)というブランドはそのまま残っている。2007年に登場した最初のiPhoneにおけるタッチパネル上での指のズームインやズームアウト、写真めくりなどの操作にはCypressのCapsenseが使われていた。そのCapsenseを制御したのがpSoCであった。pSoCは簡単な組み込み系の制御デバイスによく使われていた。

CypressはpSoCに初期のステートマシンから32ビットのArmマイコンへと高度化していた。同時にWi-FiやBluetoothなどコネクティビティ製品をBroadcomから買収して手に入れており、AIROCというブランド名を付けていた。今やpSoCと名乗ってもかつてのようなプログラマブルSoCという意味はなくなった、と同社ICW (IoT、Compute & Wireless)事業担当の上級VPのSam Geha氏(図1)は述べている。今回、ICW(IoT・演算・ワイヤレス)事業が提供する新pSoCシリーズをInfineonが再定義したといえる。

ICW事業とは何か。Infineonの4つの事業部門は、自動車向けの事業のAutomotive部門とGreen Industrial Power部門、Power &Sensor Systems(PSS)部門、そしてConnected Secure Systems(CSS)部門から成り立っている。Geha氏が統括するICW部門は、CSS部門に属しているが、図2のPSS部門のIoT分野も担っているという。


インフィニオンは自動車や産業、民生分野にわたるバランスの取れたポータフォリオをラインアップ:CSS ICWのポートフォリオがIoT成長の鍵を握る / Infineon Technologies

図2 InfineonのPSSとCSSの二つの部門にまたがるICW部門 出典:Infineon Technologies


2024年にリリースするMCUシリーズとして、3種類のpSoCシリーズを定義した(図3)。ニューラルネットワーク演算をサポートするAIエッジでの高性能・低消費電力のMCUシリーズpSoC Edge、モータ制御用のMCUコントローラpSoC Controlシリーズ、最先端のWi-Fi 6&7とBluetooth/Bluetooth Low Energy (BLE)5&6などのコネクティビティ向けのMCUであるpSoC Connectシリーズの3種類のpSoC 製品を用意した。


2024年、3つの新MCUプラットフォームと各主要製品のローンチを予定 / Infineon Technologies

図3 再定義した3種類のPSoCシリーズ 出典:Infineon Technologies


さらにこれらの製品のロードマップも作成した(図4)。ここでは現在市場に出ている製品群を緑色で表し、今年リリースする製品を赤で表している。


MCUおよびワイヤレスコネクティビティ製品ロードマップ / Infineon Technologies

図4 MCUとコネクティビティ製品のロードマップ 出典:Infineon Technologies


図4の一番上の製品はいわゆる従来のpSoC製品のハイエンド版で、pSoC 6の後継に製品がpSoC Edge 8である。ArmのCortex-Mシリーズをベースとして、ニューラルネットワーク演算NNLiteを専用回路として集積し、ML(機械学習)ready機能を搭載した。音声認識などを可能とする製品で現在サンプル出荷中だ。その詳細に関しては、3月下旬にドイツ・ニュルンベルグ市で開催されるEmbedded Worldで明らかにする予定だ。

図4の2番目の製品はもともとInfineonのXMC産業用通信IOを設けた制御用MCUの次世代版としてpSoC Controlへと発展する。従来のXMCシリーズは多少の改良は今後もあるが、基本的にはpSoC Controlになる。モータのパワー制御という産業向けのMCUである。XMCは65nmプロセスだったが、pSoC Controlは40nmプロセスで今年の夏にリリースする予定だ。pSoC ControlはSiCやGaNを駆動するドライバICに制御信号を送るMCUとなる。

図4の3番目から6番目までがコネクティビティに関する製品となる。例えばWi-Fi Combo MCUはWi-FiとBluetoothの2機能を集積する製品であり、5番目の製品はBluetooth LE(Low Energy)機能を集積した MCUで、共にpSoC Connectシリーズになる。4番目のAIROC CombosシリーズはコネクティビティのWi-FiとBluetooth/Bluetooth LE機能の両方を搭載したICで、MCUを搭載していない。また、BluetoothやBluetooth LEだけの製品はもはや作らない。

コネクティビティとしてWi-FiやBluetoothは一つの規格がずっと使われてきたのではなく、共にそれぞれ進化してきた。Wi-Fiは高速・短距離だけではなく、MIMOアンテナなどの導入で800メートル先まで飛ばす、あるいはデータレートを落として1km先まで飛ばせるWi-Fi Halowなどの規格が登場してきており、進化が続いている。BluetoothもBluetooth LEという規格だけではなくメッシュIoT用のBluetooth Mesh規格や位置検出利用などの新しい応用へとつながっている。共にこれからも進化が続くコネクティビティ機能である。

MCUは、コネクティビティの進化もさることながら、微細化が40nmの先の28nmや22nm、さらにFinFET利用などへと進化すると、演算速度や消費電力の削減にもつながっていく。Cypressから来たGeha氏は、シリコンバレーにある旧Cypress本社におり、旧Cypress製品の進化を推し進めている。

(2024/03/05)
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