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パワー半導体を直接駆動できるマイコン内蔵ドライバICをNXPが製品化

パワートランジスタは、ゲートをドライブするためのドライバICやドライバICに指令を送るための制御用マイコンまでを一つのソリューションとして使われている。1パッケージにドライバICとマイコンなどを収容したモータ制御IC「S32M2」をNXP Semiconductorが製品化した。最終段のパワートランジスタに直結して使える。

S32M2の幅広いアプリケーション例 / NXP Semiconductor

図1 車内にあるさまざまなモータやポンプなどを簡単に駆動できるゲートドライバICの応用 出典:NXP Semiconductor


クルマには、パワーウインドウやワイパー、ドアミラー、座席移動、エアコンなど、比較的小電力のモータが多数使われている。これらはパワーMOSFETでモータを駆動するが、NXPの新製品は、そのパワーMOSFETを駆動するための回路がマイコンからほとんど集積されているため、デジタル入力からパワー半導体を駆動できる。使い勝手が良く、BOMコストが下がる。しかもプリント回路基板の実装面積は大幅に削減される。このため、これまでなかなか導入されなかったブラシレスモータや永久磁石の同期モータ(PMSM)などノイズを出さない高効率なモータを使いやすくなる。車内外のノイズは低減され、居住性が上がる。

さらに、マイコンをプログラムしてカスタマイズできるようになり、またソフトウエアで定義される手法でモータ制御が可能になる。クルマにはさまざまなファンやポンプ、ステアリングホイールなどモータで駆動する機能がたくさんある。これらを効率の良い新型モータで駆動すれば省電力になり、バッテリの消費が少なくなるため、EV(電気自動車)の航続距離が延びるようになるとしている。


S32M2-S32K MCUと高電圧アナログを1パッケージに / NXP Semiconductor

図2 マイコンからパワー半導体を直接駆動できるドライバIC 出典:NXP Semiconductor


このICは、図2に示すように、Arm Cortex-M4あるいはM7チップと、アナログICを1パッケージに集積した2チップ構成のドライバICである。アナログICには、ゲインアンプや電圧レギュレータ、CAN FDあるいはLIN用のPHY通信モジュールとHSE(Hardware Security Engine)セキュリティ、3相ゲートドライバ回路などを集積している。

パワートランジスタ部分は小型モータという数Aから十数Aの小電力を想定しているが、トラクションインバータのようにIGBTやSiC MOSFETのような大電力のパワートランジスタを駆動する場合は、新製品ICをプリドライバとして用いることもできる。新製品ICをプリドライバとして、GaNなどのドライバICを駆動し、さらにIGBTやSiC MOSFETなどを駆動する。


収納可能なステアリング / NXP Semiconductor

図3 ハンドルを収納できる未来の自動運転車 このハンドル収納をサポートするモータを駆動する 出典:NXP Semiconductor


NXPは、さまざまなモータをソフトウエアベースで駆動できるようになるため、ソフトウエア定義のクルマ(SD-V: Software Defined Vehicle)のエッジに相当するモータソリューションとしてこのICに期待している。例えばこれからの自動運転では、ハンドルそのものが不要になるが、それでも運転を楽しみたい人向けにステアリングホイールを折り畳み式に収納できるような未来のクルマを提案している(図3)。もちろん自動運転では、ステアリング・バイ・ワイヤー方式になる。

SD-Vでは、ソフトウエアの再利用なども進むようになるほか、無線OTA(Over The Air)によるソフトウエアの更新も容易になり、今後のクルマのモデルの先駆けになる可能性もある。

(2023/12/05)
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