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Arm、3種類のCPUコアとGPUコア、共有キャッシュ論理をセットで提供

Armが次世代スマートフォン向けの最新版64ビットIPコアセット「Arm Total Compute 2023 (TCS23)」(図1)を発表した。スマホに重要な最新のCPUコアとGPUコアをまとめただけではなく、様々なCPUと共有キャッシュメモリを一致させる(コヒーレントな)システムコアDSU-120も一緒にしたパッケージである。

Arm TCS23: The Platform for Mobile Computing / Arm

図1 モバイルコンピューティングに必要なIPコアをセットで提供 出典:Arm


ArmがCPUとGPUをセットにしたTCS23は、実は昨年TCS22として発表していたチップセットの後継機種で、CPU、GPUとも性能や消費電力をTCS22よりも改善したもの。CPUコアとGPUコアをセットにしてライセンス販売するため、SoCやアプリケーションプロセッサを設計するユーザーにとっては、手間が減る。1年前のTC22に採用したグラフィックプロセッサImmortalis G715はMediaTekのスマホ用アプリケーションプロセッサ「Dimensity 9200」に採用されている。

今回のTCS23では、CPUにはArm Cortex-X4というマイクロアーキテクチャをカスタム化できるCortex-Xシリーズの最新版を含めている。回路的にもゲートサイズで10%程度増やしながらも性能を前世代のCortex-X3よりも15%性能を向上させ、消費電力を40%削減した(図2)。さらにこれまでの汎用・高性能CPUコアのCortex-A720と低消費電力に向いたCortex-A520も提供する。


Performance Leadership for Intelligent Experiences / Arm

図2 CPUを3種類とそれらをコヒーレントな共有メモリでつなぐDSU回路も提供する 出典:Arm


これらのCPUコアをうまく組み合わせると、もともとのbig.LITTLEアーキテクチャ、すなわち性能が必要なブラウジング作業ではCortex-A720を、ブラウザを見ている状態では低消費電力のCortex-A520を中心に動作させることで、無駄な消費電力を減らすことができる。この2種類のCPUコアを使うbig.LITTLEアーキテクチャと似た最新のコンピューティング技術はIntelやAMDなどのCPUにも使われている。今回はさらにカスタム化するCortex-X4も搭載したことで、性能・電力効率の高いSoCを作りやすくなった。

各種のCPUコアをつないでもキャッシュメモリが共有されていなければ演算速度が遅くなる恐れがあるため、CPUコアがL3キャッシュメモリを共有するための回路DSU-120(DynamIQ Shared Unit 120)も提供し、キャッシュミスやメモリ探索にかかる時間を短縮できるようにした。DSU-120では最大12個のCPUコアをサポートしている。特にCortex-X4は大量のL3キャッシュを消費するためDSU-120を開発した。

グラフィックコアとしてはMaliシリーズをさらに高機能にしたImmortalis G720も前製品よりも電力効率を14%向上させ、絵を描く際の影の付け方の一種であるDVS(Deffered Vertex Shading)と呼ばれる技術を導入している。これにより、これまで以上にフォトリアリスティックな絵を描けるようになった。G720の性能は前製品に比べ15%向上し、メモリバンド幅の使用を40%減らした。

今回のTCS23は、TSMCのN3Eプロセス(3nm相当のプロセス)で製造され、すでにテープアウトした段階だとしている。

(2023/06/23)
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