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Nordic Semiconductor、BLE+Wi-Fi+Thread+Matterの無線チップを製品化

バッテリ動作が可能な低消費電力ながら、Bluetooth LE(Low Energy)やWi-Fi、さらにメッシュネットワーク仕様のThreadにも対応し、全ての規格に対応できるMatterプロトコルを持ち、IoTセキュリティ規格PSA認証で最も高いレベル3にも対応する近距離無線チップ「nRF54H20」をノルウェーのNordic Semiconductorが日本へ顔見せした。

nRF54H20 / Nordic Semiconductor

図1 NordicのBluetooth LE+Thread+Wi-Fi+Matterチップ 出典:Nordic Semiconductor


5月に見せたこの製品は、NordicがBluetoothだけの会社ではないことを示すSoCチップとなっている。Bluetoothは最大8個の子機をつなげられる近距離無線、Wi-Fiは高速通信を可能にし、Threadは数千個といった大量のIoTデバイスを接続するのに適したメッシュネットワーク向きの規格である。これらの近距離通信では通信プロトコルが全く違うため、例えばThreadで集めたデータをそのままWi-Fiでインターネットにつなげることはできなかった。しかしソフトウエアレイヤーでこれら全てのプロトコルを読めるように統一された規格Matterにも対応しているため、Treadによる IoTデータもBluetoothからの音楽データも同時に対応できる。

無線通信技術は、電波を送受信するRF回路と、電波に乗せられたデータを解読するベースバンド回路からなる。RF回路では反射や干渉などMaxwellの電磁界方程式に基づく知識が、ベースバンド回路ではデジタル変調やアルゴリズム解読のデジタル回路の知識が必要となる。両方の技術知識に長けたNordicは、この3つの無線回路に加えて、PSA(Platform Security Architecture)認証レベル3のセキュリティ機能も集積している。

このためのチップ設計では、マイコンコアとして処理能力の高いArm Cortex-M33コア(最大320MHz)を2個、低消費電力で動作させるとともにソフトウエアで周辺回路を決めるためのRISC-Vコアを2個集積している(図2)。さらに大量のデータを扱えるようにするため1MBのRAMと2MBのNVM(不揮発性メモリでフラッシュに近いという)も集積しており、さらに外部メモリとも最大400MB/sで接続できる。


nRF54H20 Multiple processors / Nordic Semiconductor

図2 CPUコアを4個集積、Arm Cortex-M33とRISC-Vをそれぞれ2個ずつ集積 出典:Nordic Semiconductor


周辺回路では、480Mbpsの高速のUSBバスやCAN FDコントローラ、UARTやSPI、I2Cなどの11個のシリアルポーと、NFCタグ、14ビットのA-Dコンバータ、MIPIのI3C 2個などを集積している。自動車内規格であるCAN FDコントローラを集積したのは、無線でクルマのカギの開閉を行うキーレスエントリ応用を念頭に入れただけでなく、クルマのアフターマーケット市場も狙えるからだという。

肝心のRF無線回路では、送信回路の出力は10dBm(10mW)で、受信感度は-100dBm(0.1pW)とわずかな電波をも捉えることができる。この感度で1MbpsのBluetooth LEのデータを受けることができる。

無線通信チップの消費電力を下げたのは、アクティブモードから即座にスリープモードに移行し、さらにパワーゲーティングやクロックゲーティングなどの低消費電力技術を駆使したためだという。消費電力の低さを売り物に、エッジAIを駆使するスマートセンサや、高齢者向けのメディカルケアモニタリング向けのウェアラブルデバイス(ウォッチなど)、あるいは血糖値(グルコース)を5分おきに送信するような糖尿病のモニタリングなどの市場を狙っている。

Nordicはファブレス半導体だが、製造は実績のあるGlobalFoundriesの22nmのFD-SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)プロセスで作る。

(2023/06/14)
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