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アナデバ、EVの航続距離を伸ばすIC、運転手の健康を監視するICをデモ

Analog Devices Inc.は、Maxim Integratedを買収したが、オートモーティブワールドに出展を予定した新製品にその成果を見ることができる。自動車はこれから半導体デバイスが成長する応用分野の一つである。電気自動車(EV)には欠かせないBMS(バッテリマネジメントシステム)と、運転手の健康状態を検出するバイタルセンシングで見てみよう。

ADBMS6830 / Analog Devices, Inc.

図1 バッテリ管理ICのADBMS6830 出典:Analog Devices, Inc.


ADIは1月下旬のオートモーティブワールドへの出展を取りやめたが、内容に関して明らかにした。自動車用のBMSチップ製品では、ADI(旧Linear Technology製品)とMaximは競合状態にあった。BMSチップを最初に製品を発表したのは旧Linear Technology(LTC)である。当初から精度にこだわっており、今回展示しようとした製品ADBMS6830(図1)は、最大寿命の合計測定誤差は3.3V/セルで±1.8mVと少ない。これに対して、「MaximのBMS製品は自動車用の機能安全規格ISO26262に準拠して冗長性があり、実際の市場シェアはMaximの方が大きくなってしまった」とADI日本法人のアナログ・デバイセズ社リージョナルマーケティンググループ、製品コンテンツスペシャリストの戸上 晃史郎氏は、Maximの追い上げを経験したことを語っている。

このBMS製品チップは、16個直列に接続されたリチウムイオン電池セルの各電圧や温度をモニタリングする16チャンネルのBMSであるが、ADBMS6830のデータシート(参考資料1)によると、同時に連続的に各セル電圧を測定する方式を使っている。つまり全てのセルは同時にしかも冗長構成で測定でき、各セルには2つのA-Dコンバータを備えている。連続動作可能なこのA-Dコンバータだと、サンプリング周波数が4.096MHzと高いため、エイリアシング(折り返しノイズ)のない測定結果が得られるうえに、外部のアナログフィルタを減らすこともできる。

従来のBMSでは、モニターできるセルの数が多ければ、A-Dコンバータをマルチプレクサで切り替えて読んでサンプリングする場合に読み落とすことがあり、精度に欠けているものもあった。ADBMS6830には各セルに冗長構成のA-Dコンバータを集積しているため、精度が高い。精度が高ければ、バッテリの満充電のマージンを広くとらなくても済むため、1回の充電で走行できる航続距離を伸ばすことができる。

最近では、ワイヤレスBMSと呼ぶバッテリモニターICもあるが、バッテリを床一面に敷き詰める方式では、接続に問題がありそうだ。設置場所に制限があるからだ。一般的なWi-FiやBluetooth、ZigBeeなどの通信方式はほとんど使えないという。


ADIのBMSソリューションデモ / Analog Devices, Inc.

図2 バッテリ管理ICのデモ 各セルの状態をディスプレイに表示 出典:Analog Devices, Inc.


アナログ・デバイセズは16チャンネルのBMSを複数個使い、高電圧で各セルの電圧をモニターするデモを計画していた(図2)。ここでは、BMSだけではなく、バッテリパック全体の電圧をモニターするIC製品、LTC2949も使いながら絶縁SPIインターフェイスを経て電圧変換を行い、マイコンで制御することで各セル電圧を見せる計画だった。

アナデバが見せたもう一つのデモであるバイタルセンシングは、ドライバーの顔の映像から心拍数とストレスを測定するというもの(図3)。かつてADIは24GHzの準ミリ波を使った心拍数の測定となるバイタルセンシングを発表していたが、今回の計画していたデモは、旧Maxim IntegratedのC2BビデオインターフェイスICを使う。C2Bインターフェイスは軽量なより対線(Twisted pair)を使ってビデオ伝送しPC側で心拍数とストレスを測定できるようにしている。


C2Bを使ったカメラバイタルセンシングDemo / Analog Devices, Inc.

図3 旧MaximのC2BインターフェイスICによるバイタルセンシングの例 出典:Analog Devices, Inc.


旧MaximのC2B製品そのものは新しくはないが、カメラモジュールで顔を映し、皮下の血管内のヘモグロビンの吸収により変化する反射光強度によって脈波信号を検出する。可視光の中の緑色の光成分を取り出し、その反射光を見る。Apple Watchなどの活動量計では緑色のLED光を当ててその反射を見ているが、使われている手法は似ている。顔の画像データをカメラからパソコンまで正確に伝送できることを示すデモとなる。パソコン上で信号処理をして脈波信号を取り出す。

また脈拍信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを見ると、人間のストレス量を測定できるという。図4のように各脈拍のパルス周期の時間変化量をフーリエ変換すると、周波数に対する強度が求められる。この周波数スペクトルから、0.15Hzを基準としてそれより高い成分、低い成分の積分値をとり、それらの比からストレスの量を測るというアルゴリズムである。


ストレス推定機能 / Analog Devices, Inc.

図4 脈拍の周波数変動値からストレス量を推定 出典:Analog Devices, Inc.


アナログIC、特に電源用のICではまだ半導体不足の問題が残っているという。かつて旧Linear Technologyはダイバンク方式(ウェーハからダイシングを終え、チップ状態で保存しておく方式)を採用していたため、納期の面で顧客に迷惑をかけることはなかった。ダイバンク方式だと顧客からの要求が来ても1カ月程度で納入できたからだ。

しかし、現在ではそれも通用しなくなったという。例えば産業用にADIはマイクロモジュールという電源を製品化していた。マイクロモジュールには旧LTCの電源ICチップの他にコンデンサやインダクタなどの受動部品も集積しているが、これらの部品が入手できなくなりマイクロモジュール製品は出荷できない状態だという。クルマ用、産業用共にまだ半導体が足りない状態にある、とADIは認識している。

参考資料
1. ADBMS6830データシート、Analog Devices

(2022/02/22)

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