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5Gで復活を遂げたQualcomm、次の狙いは誰とでも全てが高速につながる

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Qualcommは4Gでは中国勢に食われ、厳しい戦いを強いられた。5Gでは他社を圧倒し、一気に突き放したが、MediaTekが迫りつつある。そんな中、最新のアプリケーションプロセッサSnapdragon 8をリリースするQualcommの狙いは何か、そしてこれからどう進もうとしているのか、最近のいくつかの発表会見から紐解いていく。

図1 Qualcommの2021年第3四半期の決算報告で講演する同社CEOのChristiano Amon氏

図1 Qualcommの2021年第3四半期の決算報告で講演する同社CEOのChristiano Amon氏


Qualcommのビジョンは、「誰もがそして全てが賢くつながる世界を実現すること」と同社CEOのChristiano Amon氏は言う。このことは同社がスマートフォンや携帯電話向けの半導体に特化したメーカーではなくなることを意味する。事実、同社は11月に2021年度(10月〜9月期)の決算を発表しており、その中で携帯電話、RFフロントエンド、自動車、IoTと4つのIC部門の内訳を発表している。もちろん現在は、携帯電話部門の売り上げが最も多く、QCT(Qualcomm CDMA Technologies)と呼ばれるファブレス半導体部門の売上額の合計270.19億ドルの62%を占める。しかし、その他の部門の売り上げ比率が、少しずつ上がっている。昨年度はQCT全体の36.6%だったが、今年度は38%を占めるようになっている。

Qualcommはファブレス半導体以外に、ライセンス収入活動を担当するQTL(Qualcomm Technology Licensing)部門があり、2021年度は前年度比26%増の63.2億ドルを売り上げている。市場調査会社のトップテンランキングではQCT部門だけの売上額を採用するところが多い。

技術的には携帯電話機のCDMAモデム(変復調回路)ICから始まり、それを採用したArmベースのCPUコアとGPUなどを集積したアプリケーションプロセッサAPUへと発展してきた。さらにIoTやこれからの5Gのミリ波向けにはRFフロントエンドなどへと製品ポートフォリオを広げてきた。これらの製品技術は、Qualcommのビジョンそのもので、賢く(CPUやAI)、つながる(モデムやRFフロントエンド)世界の実現に欠かせない製品群だ。

APUはスマホだけではなく、Android OSを利用するタブレットやモバイルコンピュータなどにも採用が進んでいる。QualcommはSnapdragonというコード名で呼ぶAPUはますます高機能化し、 最近発表したSnapdragon 8は、スマホからの応用拡大を示唆している。「Snapdragon 8はメタバースへのチケット」とAmon氏が表現する新しいデジタルツインの方向を示している。

すなわちメタバース(超現実空間)は、単なるゲームやテレビ電話会議でアバターを使って一緒に参加するような没入体験だけに終わらない。Qualcommは、メタバースを通じてデジタルツインを促進し、さまざまな産業の生産性向上を目指すための手段の一つと捉えている。Amon氏は「自動車産業の例を上げよう。さまざまなクルマの運転記録データを遠く離れた国や地域で、自動車業界の人がVR(仮想現実)のゴーグルをかけてみると、クルマの走行情報に関する部品情報を見ることができる」と話している。もちろん、ZoomやMicrosoft Teamsらとコラボしてアバターを通したミーティングの没入体験ソフトウエアも可能になる。「メタバースはもはやバズワードではない」と強調する。

Snapdragon 8 Gen1(図2)は、最も強力なプラットフォームだと同社は述べる。CPU(Armv8ベースの64ビットプロセッサKryo)やGPU(グラフィックスプロセッサ)、カメラ用のISP(画像処理プロセッサ)、DSP(コード名Hexagon)だけではなく、センサハブやセキュリティプロセッサ、5GモデムとRF回路、AIエンジン、高速接続するためのWi-Fi 6&6EやBluetoothなどを搭載している。

図2 Snapdragon 8の回路ブロック概念図 出典:Qualcomm

図2 Snapdragon 8の回路ブロック概念図 出典:Qualcomm


Qualcommは第2世代の5Gであるミリ波用のモデムやRFフロントエンドなどを搭載したX65 modem RFチップも2021年2月に発表しており、サブ6GHzとミリ波の両方に使える。3GPPが定めたリリース16規格を搭載した通信チップで、ダウンロードが10Gbps、アップロードも3.5Gbpsと、極めて高速の仕様となっている。12月の発表会Snapdragon Tech Summitでは、Verizon社のある米国ニュージャージーと発表会が開催されたハワイとの間を8Kスマホで中継するというデモを披露している。

(2021/12/28)

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