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Infineon、EV向け第2世代のSiCパワーモジュールをサンプル出荷

パワー半導体のトップメーカー、Infineon Technologiesがいよいよ自動車向けのSiCパワーモジュールやトランジスタの生産を本格化させる。それも1200Vへの対応だ。耐圧1200Vであれば、800V系高電圧の電気自動車(EV)にも対応できる。EVのメインドライブとしてSiCへの期待は日本メーカーも大きいが、その本格導入の時期を見計らっている。

EVのバッテリパックは、4Vのリチウムイオン電池のセルを多数、直並列に接続し300〜400V程度に昇圧するクルマが多い。メインインバータが扱える電力を増やして大電力モーターを駆動するためだ。電圧×電流で決まる電力を上げるために電流を増やすと配線が太くなりクルマ自体が重くなってしまう。このため電圧を増やして電力を上げていく。電力が増えるとモーターを駆動できる能力が増し、馬力を増すことができる。このため電気自動車では車両重量を増やさずに電力を増やすことが求められる。


エネルギーを7.6%削減

図1 SiCはエネルギーを削減できる 出典:Infineon Technologies


400Vから800Vへさらに昇圧すれば、クルマの駆動能力は上がり、長距離を走行できるようになる。エネルギー効率がさらに上がることになり、バッテリの数を減らし軽量化できる。例えば、クルマの基本的な消費電力を100 Wh/kmとすると、パワートレイン部分は28 Wh/km、IGBT(Isolated Gate Bipolar Transistor)インバータは16 Wh/km程度となるが、SiCを使えばインバータは6 Wh/kmに下がり、800V系のSiCだと5 Wh/kmと下がり、SiCのメリットが出てくる。このWh/kmという単位のWLTP燃費は、高サイクルでクルマを走行させるときのエネルギーを表しているという。800Vに昇圧しSiCを使うことでインバータのエネルギー効率を69%削減したことになる。

電気自動車のトップメーカーTeslaからスピンオフし、EVの高級車を目指すLucid Motorsは、すでに900VのクルマLucid Airを販売している。1回の充電で走行できる距離は800kmを超える。インバータにはSiCを採用している。


お客様が選択する統合レベル

図2 第2世代のSiCはモジュールからベアダイまで用意する 出典:Infineon Technologies


Infineonのこれまでの第1世代SiCデバイスが650V耐圧のトランジスタであり、3相モーターを駆動するHybridPACKを呼ぶモパワー半導体ジュールを製品として、同社は力を入れてきた。しかし、SiのIGBTがトランジスタパッケージや、裸のシリコンベアダイでも製品を供給してきたことから、第2世代のSiCでは、パワーモジュールに加え、トランジスタやベアダイでも対応する(図2)。

ロームや三菱電機など日本勢もSiCでは負けていない。トレンチ型のSiC MOSFETで世界をリードするような性能を挙げている。Infineonもトレンチ型のSiC MOSFETを開発しているが、Infineonの特長は、チャネル抵抗はやや高いものの、信頼性では負けない、というものだ。トレンチ構造は縦方向に電流が流れるため、面積を有効に使え、オン抵抗を下げることができる。ゲート酸化膜を薄くすれば性能は上がるが、Infineonはゲート酸化膜をあえて薄くせず、しかもゲートにかかるコーナーでの電界強度を弱めるためp+接合をトレンチの底部分に設けている(図3)。このガードリングのような構造を導入することで電界が弱まりゲート酸化膜を傷つけることがないため、信頼性は高いとしている。


インフィニオンのトレンチ

図3 Infineonのトレンチ型SiC MOSFETはトレンチの底にp+電界緩和層を導入し、破壊に強くした 出典:Infineon Technologies


クルマは人命を左右するハードウエアであるため、性能は重要だが、信頼性はさらに重要だという考えである。

今回新製品としてリリースした1200V/400 AのFS03MR12A6MA1Bフルブリッジのパワーモジュールは、スケーラブルな製品で、1スイッチあたり8チップ集積しているが、1200V/200AのFS05MR12A6MA1Bは1スイッチあたり4チップ集積しており、クルマの要求に応じて製品を選べるようになっている(図4)。


HybridPACK(TM) Drive CoolSiC(TM) MOSFET 1200V SiCをEV駆動用インバータに採用することでSiより拡張性を提供

図4 IGBTでこなれたパッケージにSiC MOSFETモジュールを設計 出典:Infineon Technologies

このHybridPACKパッケージはIGBTに使われているものと同じモジュールのパッケージである。当初、ハイブリッドカーのパワーモジュールとして使われたため、HybridPACKと呼ばれていたが、SiC MOSFETを全面採用している。自動車全体では5%のエネルギー効率が高まるため、仮に1回の充電で400km走行すると、距離は420kmに伸びることに相当する。

Infineonはモジュールのサンプルは出荷中でデータシートやアプリケーションノートも提供しているほか、オンラインのシミュレーションツールを間もなく提供し、ハードウエアの評価キットは今年の第3四半期には提供する予定である。

(2021/05/28)

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