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UnitedSiC社、SiCパワーJFETで750V、18mΩの製品をリリース

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SiC専門のパワー半導体メーカー米UnitedSiC社が耐圧750Vと高く、オン抵抗が18mΩ/60mΩと低いSiCパワーFET(図1)をリリースした。狙う市場は主に電動自動車(EV)とデータセンターの電源、ソーラーシステム用のインバータや蓄電池向けチャージャー。EV向けのオンボードチャージャーとDC-DCコンバータ向けなどはすでに出荷中だとCEOのChris Dries氏は言う。

新製品の概要

図1 750Vで18mΩのSiCパワーFET 出典:UnitedSiC


このチップの特長は、単位面積当たりのオン抵抗が大幅に小さい(図2)だけではなく、スイッチング出力損失エネルギーEossが少ない。EossはFETの出力容量Cossに蓄積されるエネルギーでターンオンとターンオフ時のスイッチング損失をしている。加えて、従来のSiCパワーMOSFETは、ゲートがゼロ電圧でも完全にオフせずリーク電流が流れるため、ゲートに負の電圧をかける場合がある。このためバイアスが2電源必要とされているが、このFETでは負電源は要らない。ゲートしきい電圧Vthは5Vに設定している。


RDS(on) x Area

図2 オン抵抗がずば抜けて低い750V、18mΩのSiCパワーFET 出典:UnitedSiC


このFETチップは実は、パワーJFETとそのソース-ゲート間にSi MOSFETをカスコード接続している(図3)。JFETだけだと、ゲートに負電圧をかけなければオフできないノーマリオン型になってしまうが、カスコード接続することによって、ゲートに負の電圧をかけなくてもキャリア(電子)をオフできる。従来のSiC MOSFETだと縦型構造であってもMOSのチャンネル領域を通過する。SiCはチャンネル移動度がSiの1/10程度と小さいためチャンネル抵抗成分が大きくなり、オン抵抗が下げられなかった。パワーJFETだと、基板のドレインから表面のソースまで縦方向にバルクを伝わって電流が流れるため、MOS構造ができておらずオン抵抗が小さい。


Cascode technology

図3 SiCパワーJFET上にSiMOSFETをカスコード接続してスタック 出典:UnitedSiC


従来のSiCパワーMOSFETだと、650V/600Vの製品が多いが、今回のJFETのようにわずか100Vでも高い方がマージンを拡大でき使いやすい。400V/500Vのバス電圧を使うような応用(データセンターなど)では600Vでさえマージンが狭い。

SiC JFETはかつてInfineon TechnologiesがSi MOSFETをカスコード接続させたSiC パワーJFETを開発していたが、コストが高止まりしてユーザーに敬遠されたという苦い経験があった。このため最近のInfineonはSiC MOSFETに集中している。

そこで、UnitedSiC社は、Si MOSFETとSiC JFETをスタック構造にして図3のようにボンディングワイヤーで接続、1パッケージに搭載することで、コスト上昇を抑えた。これによって、構造が複雑だが性能が優れたプレミア型SiのスーパージャンクションMOSFETと同等の価格帯に抑えることができたとDries氏は語っている。

このSiCパワーFETは、導通損失もスイッチング損失も従来のデバイスよりも少なく、かつ750Vという高耐圧化が可能になり、しかも0〜12Vのゲート電圧でドライブできるため使いやすくなった。

この結果、EV用のオンボードチャージャーやDC-DCコンバータなどの応用向けに米国市場で採用され、出荷しているという。オンボードチャージャーは回生ブレーキをかけた時や交流で充電するような場合にバッテリを充電するための回路であり、DC-DCコンバータは一般に300V〜350Vの高電圧になるようにLiイオンセル電圧を直列・並列に接続しバッテリパックを構成するが、この高電圧から12Vあるいは5Vに変換するために使われる。しかも最近では300Vよりももっと高い400V/500Vなどの電圧が検討されており、今回の750V耐圧のパワートランジスタが望まれる。

EVだけではない。データセンターでは巨大なサーバー用の電源が必要なため、やはり高電圧が求められ、しかも省エネの観点から効率の高さも求められる。電源には、力率改善トーテムポール回路やDC-DCコンバータが使われているが、新型コロナによるWFH(Work form Home)やテレワークによって、データセンター需要が増えているという。さらにソーラーシステムでも昼間に発電した電力を架線に戻すためのインバータに加え、蓄電用のバッテリシステムへの充電回路にも今年から出荷されるようになった。

今回の製品は同社にとって第4世代に当たり、プレーナ構造からトレンチ構造に移行したことでバルクJFETのセル密度を上げ、低いオン抵抗を実現したという。

UnitedSiC社は、米ニュージャージー州のRutgers大学からのスピンオフで1999年に設立され、SiCプロセス開発を行っていたが、2009年に起業家に譲渡され、ビジネスが始まった。プリンストン郊外にパイロットラインのクリーンルームを作りSiCプロセスを確立、ファウンドリに移転できるようにした。ファウンドリがラインを構築した時点で、UnitedSiCはファブレスになり、製品設計やカスタマサポートに集中できるようになった。

(2020/12/02)

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