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ニューノーマルなタッチレス時代に威力を発揮する60GHz帯のミリ波技術

Infineon Technologiesが60GHzのミリ波レーダーを使って、タッチレス応用を展開し始めた。60GHz帯は日本でも認められたミリ波周波数帯。帯域が7GHzと広く取れるため、対象物との距離を分解能2cm程度で測定できる。タッチレスで人間の心臓や肺の動きを検出できるため、リモートで医師が患者を診断できる。

インフィニオン製品紹介(ロードマップ)

図1 Infineonが提供を始めた60GHzレーダーチップ 販売された製品はAiP(Antenna in Package)技術を使っている 出典:Infineon Technologies


60GHz帯の特長は、周波数帯域(バンド幅)が7GHzと極めて広いこと(図2)。つまり、たくさんの距離データを載せられるため、距離分解能が高く2.14cmと精度が高い。高度なクルマで使われている前方検出レーダーの77GHz帯では帯域1GHzと狭いため、距離分解能は15cmと精度はやや低い。ましてや24GHzレーダーだと帯域が0.2GHzとさらに狭く、距離分解能は75cmと低い。それでもクルマの周辺四隅に配置すればクルマの有無の検出は可能だ。


60GHzレーダーの特徴

図2 60GHzレーダーの帯域は7GHzと広いため距離分解能が高い 出典:Infineon Technologies


60GHzでの広帯域による高い精度であれば、鮮明ではないがイメージングにも使える。カメラのように顔を鮮明に映す必要のないプライバシーを確保したい用途でも、人がいることを確認できるだけではなく、歩いているのか、止まっているのか、倒れていないか、といった映像は見える。単なる人の有無の検出よりは、少しは挙動が薄ぼんやりと見える程度のイメージング映像になるため、プライバシーがカメラ映像よりは保たれる。高齢者が在宅で元気で暮らしているかという確認において、プライバシーも保護される。しかも心臓や肺の動きまでもデータとして取れるため、じっとしていても眠っているのか、死んでいるのかの区別さえも付く。

さらに赤外線画像と違って、隣の部屋のように壁などの仕切りがあっても電磁波であるから透過できる。これもプライバシー保護の点でかなり有効な技術だ。もちろん電磁波の出力レベルが規制されているため、人体に悪影響は及ぼさない。

当面の用途として、クルマの中に置き去りにされた幼児の検出に使われそうだ。特に最近、車内に子供が置き去りにされる事件が続発している。日本だけではなく、海外でも子供の車内置き去りが問題になっている。このため海外でこの機能が新車に必須になる日も近い。車内に子供が閉じ込められていることがいち早く発見できれば、その情報をスマートフォンで通知する、といったこともできるようになる。

各国で60GHz周波数帯の認可を認めるための準備が進んでおり、日本でも電波法の改正が2020年1月に終わった。さらにARIB(電波産業会)では、技術の標準化作業を行っており、2020年中には標準仕様がリリースされる見込みである。

Infineonは現在提供中の「BGT60TR13C」製品に加え、2020年末に赤外線の人感センサの置き換えを狙った用途向けにロードマップとして、送信アンテナ、受信アンテナ共に1個のAiP(Antenna in Package)チップを計画している(図1)。ミリ波になるとその波長は1〜10mmしかないためアンテナの共振器が1/2波長あるいは1/4波長という極めて小型のアンテナができるようになり、アンテナそのものをICパッケージに内蔵あるいは上に出すということが可能になる。21年の中ごろには、車室内センシング用の送信アンテナ2本、受信アンテナ4本の製品、20年末にはBGT60TR13Cを実装したセンサモジュールとソフトウエアを提供するというロードマップを描いている。

用途によってAiPアンテナをパッケージに実装したものと、AiPアンテナを実装しない製品が計画されているが、それらの違いについてもInfineonは方針を述べている。AiPアンテナを実装する製品は、RF回路に不慣れなユーザーにとって調整なしで使えるというメリットがある。一方、AiPアンテナを実装しない製品はRF設計を得意とするユーザーがアンテナを調整したいと思う製品になるとしている。ミリ波という超高周波回路の設計は極めて難しい。

(2020/10/02)
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