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IBMのPower 10プロセッサはSamsungがファウンドリを請け負う

IBMがAIコンピュータ「ワトソン」に使っているPowerプロセッサの最新版Power 10を発表した。IBMのPowerアーキテクチャを使ったPower 10プロセッサファミリは、企業のプライベートクラウドやハイブリッドクラウドでのサーバー向けの製品で、前世代のPower 9と比べ、演算能力とエネルギー効率は3倍高く、推論能力もINT8(8ビット整数演算)では20倍も高いという。数PB(ペタバイト)のメモリにもアクセスできる。

図1 7nmプロセスで設計・製造されたPower 10プロセッサ 出典:IBM

図1 7nmプロセスで設計・製造されたPower 10プロセッサ 出典:IBM


IBMはRISCアーキテクチャのPowerプロセッサを、自社のサーバー向けに使ってきており、今回の第10世代のPowerプロセッサファミリ「Power 10」は7nmという最先端のプロセスで作られている(参考資料1)。5年の歳月をかけて設計し、180億トランジスタを集積した(参考資料2)。量産は2021年の後半になる。IBMはこれまで、ニューヨーク州アルバニーの300mmラインで、SamsungやGlobalFoundriesと共同でIBM Research Allianceを組織化し、7nmの試作チップを製造し、プロセスを開発してきた。今回の開発・製造ライン(ファウンドリ)がSamsungかTSMCか明らかにしていないが、来年の量産では、IBMが設計したCPUをSamsungがファウンドリとして製造する予定であることを表明している。

Powerアーキテクチャは、「Performance Optimization with Enhanced RISC」から命名したもので、かつて米国のクイズ番組「Jeopardy」で人間のクイズ王に勝利したコグニティブコンピュータ(最近はAIと呼ぶようになった)のワトソンに使われた。今回のPower 10ではAI(ニューラルネットワークモデルによる学習・推論のマシン)の推論機能を最適化し、行列演算のアクセラレータとして32ビット浮動小数点演算FP32ではPower 9の10倍、16ビットのブレイン浮動小数点演算BFloat16では15倍、整数8ビット演算INT8では20倍という性能を示すという。

Power 10の大きな特長は、数ペタバイト(PB:1024テラバイトであり約百万GB)という巨大なメモリクラスタあるいはメモリプールをサポートしていることである。大規模なAI推論モデルを実行するようなメモリに大量の負荷がかかる用途で威力を発揮する。このメモリクラスタ技術をIBMはメモリインセプションと呼び(Inceptionは始まりの意味)、一つのPower 10プロセッサをベースとするシステムでは、一つのメモリクラスタ内に他のPower 10プロセッサがあれば、互いにメモリを共有することができるという。この結果、一つのクラウド内で多数のPower 10プロセッサシステムは最大数PBという超巨大なメモリ空間を共有できるようになる。このメモリ共有技術は、クラウドを構築する場合に極めて有効である。

加えて、ハードウエアベースのセキュリティを強化した。Power 9と比べて、1コア当たりのAES(Advanced Encryption Standard)暗号化エンジンの数を4倍にして暗号化時間を高速にし、将来の量子暗号に備えた。加えてコンテナのセキュリティも高めた。コンテナ密度を上げると共に新しいセキュリティを確保できるようにするため、ハードウエアで強化したコンテナの保護と、コンテナ同士を絶縁分離する能力を高めた。同じVM(バーチャルマシン)内の他のコンテナからも守るように設計されている。

IBMは、クラウドを構築しやすいこのPower 10プロセッサを一つの企業内コンピュータで大量に使うことを期待している。性能や消費電力(エネルギー効率)だけではなく、メモリ共有が容易で仮想化しやすい。しかもセキュリティがVM(仮想マシン)だけではなくコンテナも保護できることで、やはりクラウドに向いたテクノロジーだと言えそうだ。

AWS(アマゾンウェブサービス)やMicrosoft、Google CloudなどのパブリッククラウドではIntelのハイエンドプロセッサXeonが大量に使われているため、この分野で競合するのではなく、Power 10プロセッサは企業内クラウドやオンプレミスとのハイブリッド、あるいはパブリッククラウドとのハイブリッドに活路を見出している。

参考資料
1. IBM Reveals Next-Generation IBM POWER10 Processor (2020/08/17)
2. Q&A: Stephen Leonard on the Business Value of IBM POWER10

(2020/08/20)

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