オートモーティブワールド2020(1)〜可動部不要LiDARや60GHzレーダーなど
第12回オートモーティブワールド(図1)では、クルマ用途での新しい提案が登場した。表面発光レーザー(VCSEL)による可動部分のないLiDARシステムをオーストリアの中堅半導体ams社が提案、周波数帯域が7GHzと広い60GHz帯でのレーダーでクルマ内の人物の数やその心拍数を測定、可視化する提案をInfineonが行った。
図1 第12回オートモーティブワールドのひとコマ
自動運転に向け、クルマの周囲の物体までの距離を測るLiDARは、機械的にポリゴンミラーやMEMSミラーを360度ないし数十度、スキャンニングして動かす。しかしクルマメーカーは可動部分を嫌い、電子化を進めてきた。このような要求にピッタリのLiDARシステムをオーストリアのams社が提案した(図2)。空間をスキャンするのは、マトリクス状に面発光レーザーを多数集積したVCSELチップだ。チップ上には半導体製造技術で形成したマイクロレンズ。詳細は語らないが、直線的に発光するレーザーの往復をToF(Time of Flight)で物体までの距離を測る。集積されたレーザーの数や出力値などは不明。ただし、クルマの前方200mまでの距離を測定できるほどのレーザー出力はあるとしており、すでにドイツのティア1サプライヤのZFおよびZFの関連会社でLiDARが得意なIbeo社にVCSELチップを納入しているという。
図2 amsの提案するVCSEL利用の可動部分のないLiDAR
amsは、VCSELチップを開発しており、LiDAR用のハイパワーだけではなく、顔認識用のVCSELチップも開発している。レーザーで顔(目や鼻、口、耳など)の3次元距離を正確に測定できることから認識精度は高まる。この小出力VCSELレーザーを使った顔認証応用は、ドライバーの居眠り警告だけではなく、ドアロックの開閉にも応用できると見ている。
Infineonはクルマ用のレーダーチップの低コスト化(GaAsからSiGeに、パッケージのモールド化など)で普及に貢献してきたが、77/79GHzレーダーシステムをフロント側に設置して前方250メートルにある物体検出に使われてきた。24/28GHzではクルマの周囲の死角となる場所での物体検出のような衝突防止や駐車支援などにも使われてきた。さらに、これを車内にも使おうという試みも進めている。
特に79GHz帯では周波数帯域を4GHzに広げ、対象物体の検出精度を上げようという試みが始まっている(参考資料1)。どこに人がいるのかがわかるようになる。
今回、60GHz帯で周波数帯域が7GHzと広い規格が日本でも許可されそうになってきた。総務省の情報通信審議会では60GHz帯無線設備作業班の第1回会合が昨年の5月に開催され、10月までに5回が報告されている(参考資料2)。以来、現在(2020年1月17日)に至るまで会合は行われていないため、詰めの段階に入り正式な認可を待つ状態にきていると見てよいだろう。
図3 60GHzレーダーでの車内応用例
Infineonはそれをにらんで、このほど60GHz帯での車内応用のデモを示した(図3)。3列目の右座席に人の姿が映っている。心拍数を図る機能も付けられる。真夏の車内への子供や赤ちゃんの置き去りを警告するといった応用もある。また、手によるジェスチャー入力にも対応する。クルマ用ではないが、スマートフォンGoogle Pixel 4にはすでに使われているという。
オートモーティブワールドには、さらにさまざまな企業が集まり、新しい試みや戦略を知ることができる。次回はこれらを紹介する。
参考資料
1. 広帯域ミリ波による物体検出で位置精度を上げ、応用を拡大 (2019/12/12)
2. 情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 60GHz帯無線設備作業班(第1回)