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データセンター向け大電力電源モジュールにまい進するVicor

データセンターのコンピュータに使う電源は数10kWといったハイパワーの電源が求められている。データセンターの建物には380Vが供給され、コンピュータラック電源は48V、コンピュータには12Vに落とす。IntelのXeon プロセッサのような超高集積CPUには1V程度と低いが電流は高い、という特長がある。この市場で勝負をかけるVicor社にニッチ企業の生き方がある。同社Corporate VPのRobert Gendron氏(図1)に聞いた。

図1 Vicor社Corporate VPのRobert Gendron氏 指に挟んでいるのは電力密度256W/cm3の電源ICモジュール

図1 Vicor社Corporate VPのRobert Gendron氏 指に挟んでいるのは電力密度256W/cm3の電源ICモジュール


米国ボストン郊外にあるVicor社は、1981年創立の電源用ICメーカーだ。1998年に日本法人を設立、電源の販売とカスタム電源でビジネスを開始した。さらに電源用の小さなパワーコンポーネントの販促と技術サポートのためにVicor KKを2017年に設立した。Vicorが力を入れる電源パワーコンポーネントは、CPUやGPUのプロセッサのすぐ近くに置いて1000Aもの電流を扱う、チップの上か下に電源チップを積み上げ熱を逃がす、あるいは48Vから12Vへ少ないロスで変換する数100Wの電源、などハイパワー電源が多い。

同社は電源メーカーとして、将来の成長分野として、AIに代表されるデータセンターや電気自動車を始めとするカーエレクトロニクス、IoTや5Gなどの通信インフラ、LED照明でもたらされる豊富な情報、というセグメントに力を入れている。特にAI用の学習チップ(ハイエンドCPUやGPU、FPGA、専用チップなど)のアクセラレータやプロセッサにはできるだけ電源に近づける設計が求められる。低電圧だが大電流を消費するからだ。データセンター向けの事例を紹介しよう。

CPUやGPU用の電源では、POL(Point of Load)方式を始めとするプロセッサのすぐ横に配置するような手法が採られてきた。Vicorは、さらに一歩進んで、プロセッサ基板の裏側に電源用ICブロックを置き、プロセッサから電源までの距離を一気に短縮する方法を開発した。従来の隣横に置く方式でさえ電源供給ラインの抵抗は70µΩと小さいが、縦積みに置く方法だとわずか10µΩと1/7にさらに小さくなった。


10kW Power Tablet

図2 iPadサイズの10kW電源 出典:Vicor


AI学習などに使ってきた電源は通常、300〜400Vから48V、さらに12Vと落としていき、CPUやGPUには1.0V程度に落とす。その代り、扱う電流は1000Aにも達することがある。300〜400Vの交流電源から48Vの直流電源には、iPadサイズの大きさの電源を使って48Vまで落とす(図2)。平べったい電源だと冷却が空冷、水冷共に熱設計の自由度が高まり、使いやすいという特長がある。

48Vから12Vへ落とす電源には、DC-DCコンバータを使うが、VicorはGPUを得意とするNvidiaと協力し、48Vから1Vへ直接変換する電源ICを開発した。図3に示すようなパッケージに電源を載せるPower on Package技術を用いて、GPUに供給し、メモリや周辺回路から分離しノイズの影響から遠ざけている。図3の黄色いICがVicorの電源である。


Older Nvidia SXM2 Card Using Conventional 12V Multiphase / Latest, higher power, Nvidia SXM3 Card Using 48V Vicor Power-on-Package

図3 NvidiaのSXM3に供給する48VのDC-DCコンバータ(右写真の黄色い部分) 左は従来の電源を使ったGPUカード 出典:Vicor


DC-DCコンバータNBMとしては、48V系と12V系を双方向に供給できる電源が表面実装、ピン挿入と両方を持っている。図3右の黄色いパッケージのDCMは表面実装型だが、Vicorが2018年にリリースした面実装の高電力密度のパッケージSM-Chip NBM(図4)も表面実装である。スイッチング周波数1MHz以上で動作し、電力密度が255.7W/cm3、ピーク変換効率98%と高い。わずか22.8mm×17.3mm×7.4mmという大きさで、最大1kW、2ms間のピーク性能を提供する。


NBM 2317 Surface-mount package 23*17*7.5mm

図4 表面実装型の大電力DC-DCコンバータNBM 出典:Vicor


Vicorは大電力のAC-DCコンバータ、DC-DCコンバータなどさまざまな電源モジュールを生産しているが、AmazonやMicrosoftのようなクラウド業者によるデータセンターの拡張に伴い、大電力電源の需要は増えていくため、Vicorは2018年に工場を拡張し生産能力を6倍に増やした。今後はこれでも供給不足が予想されるため、2020年第2四半期までにさらに8万5000平方フィートの工場をさらに追加する計画だ。

注)
Vicorは電源モジュールを電源コンポーネントと呼んでいます。当編集室では、コンポーネントにはコンデンサやコイルのような受動部品のイメージがありますので、ハイブリッドICを含めて電源ICあるいは電源モジュールと表現しました。

(2019/06/07)

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