量産前夜のSiC パワーMOSFET、ロームが6インチの新工場を建設
ロームはSiCパワー半導体に力を入れてきたが、SiC MOSFETのデータセンターの無停電電源やソーラー発電をはじめとして電源用を中心に出荷が増えている。2020年ごろからのEV(電気自動車)用途の拡大に向け、これまでの工場では間に合わなくなることから、九州の筑後工場(図1)にSiCデバイスの6インチラインを増設する。
図1 ロームの子会社であるローム・アポロ筑後工場の計画図
ローム子会社のローム・アポロ社は、図1のような新棟を建設する計画だ。地上3階建て、延べ床面積約11,000m2になる。着工は2019年2月の予定で、竣工が2020年12月を予定している。既存の工場はまだ4インチラインが中心であり、このラインをいずれ6インチへグレードアップするとしている。
SiC半導体は、ダイオードは構造が単純であるため、ロームは2010年4月にダイオードの量産を開始した。SiCショットキダイオードは、多数キャリア素子だけに特にオンからオフへのスイッチングの損失が従来のSi 高速pinダイオードと比べ圧倒的に少ない。ロームはSiCショットキダイオードを量産開始以来、着実に生産量を増やしてきた。しかも競合と比べ、直列抵抗が低く、順電流を大きくとれるというメリットがある。順方向電圧VFは他社と変わらないが、電流を大きく流せる。例えば、SCS310Aの例では、これまでの製品では順方向電圧VFが2Vで10Aしか取れなかったのに対して、同じ電圧で18A強まで取れる。その差は、ロームが結晶のインゴットから製造しており、特にエピタキシャル成長技術で一日の長があるという。エピ成長と研磨がカギだとしている。
ロームは、2014年からSiC MOSFETを出荷し始めており、これも徐々に増えているとしている。データセンターの無停電源(UPS)やFA/産業機器用の電源などに入り始めている。最近はサーバ用の電源の需要が多いという。UPSにSiCを採用すれば、高周波動作が可能なためコイルとコンデンサを小さくでき、Siよりも高温動作可能なため、空冷にせよ水冷にせよ放熱フィンの小型化や冷却システムの小型化が図れるため、コンピュータラックスペースが削減され、ブレードサーバーを追加できる。例えば、800V入力で5kWのDC-DCコンバータの例では、Si IGBTでは最大効率が96%(損失4%)だったが、SiC MOSFETを使えば98.1%(損失1.9%)に上がった。このためSi IGBTでは最大3.3kWだったがSiCモジュールだと最大5kWまで許容できる。逆に出力を同一にすると体積は1/7.重量は1/5になると見積もっている。この時の5kWのDC-DCコンバータの体積は12cm×18cm×12.5cmと小さい。
このため電源全体のコストは、SiCによってむしろ下げることができるという情報もある。SiCトランジスタだけではまだ1桁高いが、トータルシステムコストでは安くなる。データセンターではメリットがはっきりしてきたためSiC化は立ち上がり始めている。自動車用には欧州をはじめとする高級車メーカーから要求が来ているが、大量に使われるのはまだ先になりそうだ。
新工場はSiC結晶の6インチウェーハラインが主体となり、生産プロセス装置は8インチウェーハも取り扱えるようになっているという。現在は6インチの需要には応えられない状況だが、今年の下期には6インチの生産量を増やしていきたいとしている。
ロームは2009年7月にドイツのSiC結晶メーカーSiCrystal社を買収し、結晶成長を自前で行っている総合SiCメーカーだ。それでもデバイス製造では、内製ウェーハに加えて外部からも購入しているという。サプライチェーンのリスク分散のためだ。
ロームはチップとモジュールを製品化しているが、モジュールはSiC開発当時モジュールメーカーがチップを買ってくれなかったために作ったのだという。これからはSiCの立ち上がりにより、チップに力を入れていく。StarPowerやSemikron、Powersem、DanfossなどのSiCパワーモジュールメーカーにチップ売りを進めていくためだという。