セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

ルネサスの28nmフラッシュマイコン、自動運転向け制御へ

ルネサスエレクトロニクスは、さらなる排ガス規制/低燃費に対応し、コネクテッドカー向けのセキュリティと大容量フラッシュメモリ容量、そして機能安全のASIL-Dに準拠し自動運転に向けた、マルチコアマイコン「RH850/E2xシリーズ」(図1)を開発、サンプル出荷を始めた。これは28nmプロセスで設計したフラッシュマイコン。

図 ルネサスの世界初28nmプロセス フラッシュ内蔵マイコン「RH850/E2xシリーズ」

図1 自動運転向けマルチコアマイコンRH850/E2xシリーズ 出典:ルネサスエレクトロニクス


車両制御用のマイコンは、これまではそれほど高性能である必要はなかった。基本的にマイコンは制御命令が豊富で制御するICとして使われ、演算命令はSoCで実行してきた。しかし、これからは、内燃エンジンの排ガス削減/燃費向上では高い演算性能が求められている。かといって高価なSoCは使いたくない。また、自動運転ではリアルタイムの応答がマストになる。また、コネクテッドカーでは、サイバー攻撃に対処するためセキュリティを担保する機能が必要となる。加えて、OTA(Over the air)として無線を通じてファームウェアを書き換えられるようになる。こういった将来の要求を満たすマイコンとして、今回の新製品を開発した。

将来のクルマをイメージすると、エコカー(電動化や低燃費)、コネクテッドカー、自動運転になる。今回のマイコンは、この3つを満たすもの。

まずエコカーでの電動化や低燃費化で必要な演算速度を高めるため、マイコンとして最高速の400MHzのクロック周波数で動作するCPUを最大6コアのマルチコアを集積した。また、後述する冗長構成可能なCPUコアは4対揃えており、そうではないコアも2個集積した合計10コア構成となっている。シリコン半導体は微細化すればするほど、低い消費電力で高い性能を持つため、28nmという微細化プロセスを用いた。クルマを高精度に制御するためにはより多くのセンサ入力情報を処理するための演算能力が必要になる。またマルチコアによる並列演算も消費電力を上げずに高速化する手段である。

マルチコアは、1チップに数個のマイコンがあるように見せかける「仮想化」技術にもつながる。すなわち、これまで別々のECUで構成していた一つのシステムにおいて、似たようなECUを一つにまとめることができる。またクルマのミッションクリティカルな機能では、冗長構成を採ることが多く、2個のCPUコアが演算の同一性を担保するデュアルコア・ロックステップ方式のCPUコアを4セット集積した。つまり合計8コア。この方式は、二つのコアで同じソフトウエアを走らせられるように互いに干渉させない技術。さらにロックステップ方式ではないCPUを2個搭載しており、合計10コアを集積した。ただし、400MHzで動作するコアは6コアであるから、6コアとして発表している。

コネクテッドカーに対しては、OTAによるソフトウエアの更新が利用されるようになり、ECUの校正や更新のためにクルマをディーラーまで持っていく必要がなくなる。マイコンに集積されたフラッシュメモリの容量を拡大することで、ソフトウエアの様々な規模にも対応する。このため最大16MBのメモリを集積している。現在は2〜8MBの容量のマイコンが多いが、2020年には4〜16MBが必要とされるとルネサスは見ている。


図2 コネクテッドカーに必要な機能 出典:ルネサスエレクトロニクス

クルマがインターネットなどとつながるとサーバー攻撃される恐れが出てくるため、セキュリティで守ることが不可欠となる。EVITA(E-safety vehicle intrusion protected applications)セキュリティでは、Full、Medium、Lightの3段階あるが、このマイコンでは中間のMediumレベルに対応している。最上位のFullには、ECC(Elliptic Curve Cryptography:楕円曲線暗号)クリプトアクセラレータ、ワールプールハッシュエンジン、AES(Advanced Encryption Standard)のクリプトアクセラレータ、RAM、ROM、専用のセキュリティCPU、真性乱数生成器(TRNG)そして擬似乱数生成器(PRNG)を含むが、MediumはECCとハッシュエンジンを取り除いたもののようだ。

自動運転に関しては、安全性を重視して機能安全規格ISO26262の最高レベルASIL-Dを目標として、動作時の故障を検知するデュアルコア・ロックステップ方式を構成できるCPUコアを4個用意した。さらにハードウエアによる迅速な故障検知も可能にしたという。このマイコンは車両制御が主たる機能で、自動運転に必要な物体認識などの機能はR-Car のSoCで対応する。28nmのチップはTSMCのHKMGプロセスを利用する。

なお、ルネサスは将来、関連するECUをある程度まとめることで、クルマの軽量化にも対応しようとしている。今回のマルチコアはいくつかのECUを一つにまとめるようなクルマ作りにも対応している。

(2018/03/28)

月別アーカイブ