Qualcomm、家庭内機器をセキュアなWi-Fi Meshで何台でもつなぐ戦略
家庭内のWi-Fi機器が数十台もつなげられるようになる。QualcommがWi-Fiメッシュネットワークに力を入れ始めた。このほど、スマートホームのWi-Fiルータを作れるメッシュネットワークを構成するリファレンスデザインを日本でも提供する。さらにメッシュネットワーク信頼性を確保するためWi-Fi- SON技術も開発した。
図1 Qualcomm社コネクティビティ&ネットワーキング事業部門のSVP兼ジェネラルマネージャーのRahul Patel氏
QualcommのリファレンスデザインはWi-Fi Mesh Networking Platformと呼ばれ、標準化及び認証団体Wi-Fi Allianceの認証を受けたWi-Fi Mesh Networkのアクセスポイントのルータは市場に出ている、と同社コネクティビティ&ネットワーキング事業部門のSVP兼ジェネラルマネージャーのRahul Patel氏(図1)は言う。Wi-Fi Mesh Networking機器を設計する時間をぐっと短くするためにQualcommはリファレンスデザインを導入し、その普及を促進しようとしている。
Qualcommは2011年にWi-Fiチップセットの大手だったAtheros Communicationsを買収、Wi-Fiチップセットでトップを進んできた。また、Bluetoothも昨年、Bluetooth Meshの規格が標準化され、Bluetooth Meshでもリーダー的存在だった。というのは、Bluetoothチップの大手メーカーCSR社を2015年に買収、傘下に収めたからだ。Bluetooth Meshはもともと家庭用のIoTを促進するための規格であり、CSR社が提案してきた。
メッシュネットワークは、多数のIoTや通信回路を持つデバイスをつなげられることが最大のメリットであり、1台のIoTやセンサから近くのIoTへとデータを転送し、最後にゲートウェイを経て、外部のインターネットとつながるという仕組みを持つ。例えば従来のBluetoothは親機に対して最大8台の子機しかつなげられなかった。このためCSRはCSR Meshという規格を提案し、Bluetoothの標準化委員会にかけ、メッシュネットワーク規格は正式にBluetooth Meshとなった。
Wi-Fi機器でも多数つなげると親機ともいうべきWi-Fiルータでの負荷が重くなりデータレートが落ちてしまうため、あまり多くの機器をつなぐことができなかった。今回、QualcommはWi-Fi Mesh Networking Platformを提供し、その機器を設計しやすくした。このリファレンスデザインには、Wi-Fi Meshのほか、Bluetooth Meshと、もともとメッシュネットワークのZigBeeも搭載している、とPatel氏はいう。
このプラットフォームの特長は、後述するWi-Fi SON技術を取り入れたこと、キャリアグレードの通信品質、IoTの接続、さらにWi-Fi規格の802.11axや802.11ad、Ethernet、電力線通信、など多数のバックホールにも対応している点だ(図2)。Patel氏は、Wi-Fi Meshはすでに市場に出ており、その90%がQualcommのチップを使っていると語る。特に米国ケーブルテレビ大手のComcast社やカナダの通信業者であるBell Canada社などもQualcommのMesh Network Platformを採用しているという。
図2 Wi-Fi SON技術がフレキシブルに性能を維持し信頼性高くセキュアにする
このプラットフォームの最大の特長は、Wi-Fi Meshを簡単に設定できるうえにセキュアにつながるWi-Fi SON(Self-Organizing Network)技術を取り入れたことだ。Wi-Fi Meshで家庭内の機器を接続する場合、Wi-Fiルータやゲートウェイを設置し、デバイスを追加し、レンジエクステンダーを設置するときの設定が煩わしいが、このプラットフォームを使えば簡単になるという。
Wi-Fi SONには、自動的に機器を検出しスマートフォンにもつなぐ自動コンフィギュレーション機能(Self-Configuring)をはじめ、4つの基本機能がある。自動管理機能(Self-Managing)では、自動的に性能劣化を検出しダイナミックにバンドを変える機能があるため、ネットワーク容量を常に最適化する。Wi-Fi機器から機器へのローミングは、シームレスに働きエンドツーエンドのコンテンツ認識によるルーティングが可能だ。例えば機器から機器へ送っているデータがテキストメッセージなのか、重たい4Kビデオやブラウジングなのかを判別し適切なバンド幅を提供する。
さらに、自動修復機能(Self-Healing)では、メッシュネットワークが複数のルータネットワークの接続経路や、レンジエクステンダーを有利に使える経路に変えることができる。バンド幅のボトルネックが見つかったり既存の接続がハングアップしたりすると、ネットワークは自動的にポイントを切り替え、常に最適な性能を提供できるようにルートを変更する。
4つ目の自動保護機能(Self-Defending)では、例えばハッキングされた電灯があるとしよう。このWi-Fi SONではOEMがネットワークセキュリティを使えるようにする。潜在的な脅威に対して、それを同定し保護するために常にユーザーの挙動を学習し適応しているのだという。
Wi-Fi SONのような機能はこれまで、通信バックボーンの中継器やルータ市場にしかなかった。しかし、多数のWi-Fi機器を家庭内で接続するようになると、SON技術のような信頼性が高くセキュアな環境を作ってくれる技術は不可欠になるとPatel氏は期待している。