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AIスピーカーの感度を上げるXMOSのマルチスレッドプロセッサ

米国に遅れること3年。日本でもAIスピーカーが登場してきた。Googleが「Google Home」、
Amazonは「Amazon Echo」、LINEは「Clova WAVE」などが日本語を理解する音声認識ソフトウエアを使ったAIスピーカーという名称で登場してきた。音声もビームフォーミングで指向性を調整することで認識率を高めることができる。これを可能にするチップを英ファブレスのXMOSが投入している。

AIスピーカーは、米国ではデジタルアシスタントと呼ばれ、かなり普及している。元々Apple社のiPhoneで「ヘイ、シリ(Hey, Siri)」と呼びかけることで音声認識操作が普及し始めた。それをスマホではなく、スピーカーという形でGoogleやAmazonなどが世の中に出している。GoogleのAIスピーカーGoogle Homeは「OK、グーグル」と言い、Amazonは音声認識技術「アレクサ(Alexa)」と呼ぶ。ただし、実際には、スピーカーに近づいたり、大きな声を出したりしないと認識できないことが多い。

そこで、音声入力にもビームフォーミング技術を用いて、声を出す人の方へマイクを向け、音声を拾うことで、認識率を上げることができる。ビームフォーミングは、元々レーダーを機械的にスキャンするのではなく、小さな平面アンテナを並べた構造で特定の方向へビームの位相を変えながら順々にシフトさせることで機械的なスキャンの代わりを担う。いわば、軍事用途で生まれたフェーズドアレイレーダー技術である。電波の代わりに音声を使うのが今回の技術である。

例えば、「アレクサ」、と言えば、声のする方向へマイクの音声の位相をずらし、音を出す人の方向に等価的に向ける。Embedded Technology 2017展でXMOSは、360度から音を拾うタイプのリファレンスデザインと、スピーカーを壁などに取り付けて180度の方向の音を拾うタイプのリファレンスデザインの2種類のボード(図1)を展示した。XMOSはファブレス半導体メーカーではあるが、チップを展示しても機能を実感できないため、ボードにしてMEMSマイクも取り付けたリファレンスデザインボードも用意した。このボードのブランド名は VocalFusion Speaker。


写真:XMOS社が展示した2種類のボード

図1 丸いボードが360度、細長いボードが180度の範囲で音を拾う


XMOSのチップは、xCOREというブランド名のシングルコアでマルチスレッド技術のCPUをベースとする。XMOSの技術はCPUの中のALU(算術演算ユニット)を有効活用する。一般にはシングルCPUコアにシングルスレッド処理だが、ALUは通常20〜30%程度しか使わないので、残りを有効利用するのがXMOSの技術だ。XMOSはシングルCPUコアの演算をALUに数命令処理を行わせることのできるマルチスレッドを適用した。そのためには、命令のスケジューリングを担うハイパーバイザを設置している。一般のマルチコアのマルチスレッドは、CPUコアの並列度を上げているためチップ面積はコアの数だけ増えるが、XMOSの技術はコアの数を増やさずに並列度を上げているため、小さなチップ面積で済む。つまり低コストで並列演算を提供する訳だ。

ソフトウエアベースでオーディオ処理を担うチップとして、これまで製品を出してきた。すでに世界に200社の顧客がいる、とXMOS社の日本カントリー・マネージャーの大川崇氏(図2)は言う。XMOSは2017年7月に音声処理技術を手に入れるため、米国ボストンをベースとするSetem Technology社を買収、今回のチップに音声技術を実装した。今回の音声認識ソフトウエアはディープラーニングで音声認識を行うSensory社の製品をインストールしている。


写真:XMOS社の日本カントリー・マネージャーの大川崇氏

図2 XMOS社の日本カントリー・マネージャーの大川崇氏


今回のIC製品xCORE VocalFusionには2種類のチップがあり、4チャンネルのデジタルマイクインタフェースを持ち、音声処理DSPを内蔵し、その他各種のデジタルインタフェースを持つXVF3000と、これにキーワードトリガー検出機能を集積したXVF3100である。キーワードトリガー検出とは、「ヘイ、シリ」のように、これから音声認識動作に入ることを伝えるための機能である。

この評価ボードに載せたMEMSマイクはInfineon TechnologiesのS/N比が69dBと大きいIM69D130。Infineonは、MEMSマイクの提供だけではなく、XMOSへの出資もこの10月に決めている。

(2017/12/12)
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