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GaNモノリシックパワーICをDialogが量産へ

シングルチップのGaNパワーICを英Dialog Semiconductorが開発、スマートフォンのACアダプタ(AC-DCコンバータ)に向け、今後12カ月以内に量産すると発表した。GaNのモノリシックICは世界で初めての量産となる。ファウンドリはTSMCの予定。

図1 Dialog Semiconductor Corporate Development Strategy担当のVPであるMark Tyndall氏

図1 Dialog Semiconductor Corporate Development Strategy担当のVPであるMark Tyndall氏


民生製品の代表であるスマホのアプリは、「ポケモンGo」などで見られるようにゲームやSNSではGPSと連動させ、ARでビデオ映像を重ねるなど、消費電力が増える傾向が強まっている。そこで、バッテリ容量を大きくするため回路基板の小型化を強く要求しているが、充電するためのACアダプタも大きくならざるを得ない。そこで、ACアダプタの小型化と低消費電力化を図るため、従来のシリコンMOSFETやIGBTに代わりGaN FETをパワートランジスタとして使うことをDailogが提案している。

狙う市場は世界中のコンセントを利用できるユニバーサルACアダプタだ。ここではアダプタを構成する部品のBOM(Bill of Materials: 部品表)コストでGaNかSiかを比較すべきだという。パワートランジスタだけのコストなら、GaNの方が複雑で難しい材料を使っている分、値段が高いのは当たり前。しかしアダプタにはコイルやコンデンサなどの受動部品が多く、しかも大きい。GaNはシリコンよりも高周波で動作できるため、コイルやコンデンサを小型・低コストにできる。だから、アダプタのBOMコストで比較すれば、Si以下のコストで実現できる、と同社Corporate Development Strategy担当のVPであるMark Tyndall氏(図1)は主張する。

しかもACアダプタは、日本では100V、米国でも117V入力だが、欧州では220V、あるいは240Vなどもある。このため、世界中でスマホを充電できるようにするためには240Vのコンセントでも充電できることがカギとなる。「交流のピークは400V近くになり、さらにディレーテングを考慮すると、パワートランジスタの耐圧は650V必要になる。だからGaNを使う」、と同社Emerging Business GroupのBusiness Development DirectorであるTomas Moreno氏(図2)は言う。


図2 Dialog Semiconductor Emerging Business GroupのBusiness Development DirectorであるTomas Moreno氏

図2 Dialog Semiconductor Emerging Business GroupのBusiness Development DirectorであるTomas Moreno氏


現在特定ユーザがサンプルを評価している最中の製品「DA8801」は、パワートランジスタだけではなく、レベルシフタとゲートドライバ回路もGaNで構成したモノリシックICのハーフブリッジである(図3)。ゲートドライブ回路は高速性が求められる。パワー段以外をシリコンで構成すれば接続用のボンディングワイヤーをはじめとする配線が長くなり、高速動作の邪魔になるインダクタンス成分が増えてしまうため、全てGaNで構成する方がより高速動作しやすくなる。


図3 Dialog Semiconductorが開発したDA8801 出典:Dialog Semiconductor

図3 Dialog Semiconductorが開発したDA8801 出典:Dialog Semiconductor


電力用高耐圧トランジスタではシリコンのIGBTがあるが、IGBTには少数キャリヤの蓄積時間が本質的にあるため、高速動作には限界がある。これに対してFET(電界効果トランジスタ)は多数キャリヤデバイスであるため、高速動作が可能だ。「DA8801」では350kHzで動作させている。実際、コモンソースもゲートループ、ドライバの接地問題など寄生素子がないためノイズは極めて少ない。

スイッチング方式の電源だと、スイッチング周波数を上げるとコイルやコンデンサを小さくて済むため、アダプタ全体を小型にできる。しかも、交流電圧がゼロになるタイミングでスイッチングさせる、ゼロクロススイッチング方式を採用しているため、このノイズも小さい。このICで作る25WのACアダプタの効率は94%と高いため、従来の同じ電力規模のアダプタの半分の体積で済むとしている。

「DA8801」は、5mm×5mmのQFPパッケージに収容され、パワースイッチとしてのオン抵抗は500mΩと少ない。立ち上がりのdV/dtは50V/nsと急峻である。GaNトランジスタは本質的にHEMT構造のため、シリコンのMOSFETよりも高速になる。


図4 次は全GaNのPMICを計画 出典:Dialog Semiconductor

図4 次は全GaNのPMICを計画 出典:Dialog Semiconductor


Dialogは、今回のハーフブリッジ回路に加え、同期整流回路や急速充電回路、デジタル制御回路などもGaN ICで実現していく方向だ(図4)。急速充電ICは、デジタルのプロトコルを使ったバッテリICとの通信が必要だが、QualcommのQC 3.0方式をはじめ、MediaTekのPump Express方式、SamsungのAFC方式に対応しているという。

(2016/08/25)

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