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ルネサス、欧州の車車/車路間通信規格でリードする立場に

ルネサスエレクトロニクスが欧州と北米での車車間/車路間通信(Vehicle to X:V2X)に向けたIEEE 802.11pに準拠したRF/モデムIC「R-Car W2R」を開発(図1)、5.9GHzを使った欧米での相互接続試験(インターオペラビリティ)を開始した。

図1 ルネサスの開発したV2X通信モジュール(上)とチップ(下)

図1 ルネサスの開発したV2X通信モジュール(上)とチップ(下)
モジュールの大きさは32mm×24mmで、上のメタルシールドの中に下のチップが入っている。チップパッケージの大きさは10mm角


欧州では、802.11pの通信もETC(電子料金収受システム)通信の周波数も5.855〜5.925GHzを使うが、わずかに周波数帯が離れているだけにすぎない。相互干渉の危険があるため、隣接信号をいかに抑えるかが最重要課題となっていた。新製品は、欧州の標準化団体ETSI(European Telecommunication Standards Institute)の相互干渉レベルをクリアし、十分低いノイズレベルに抑えることができた(図2)。このため、今の所、これをチップレベルでクリアした唯一の企業となったとルネサスはいう。


図2 欧州ETSIの相互干渉レベルをクリア 赤い線が規格値で緑の線が測定結果 出典:ルネサスエレクトロニクス

図2 欧州ETSIの相互干渉レベルをクリア 赤い線が規格値で緑の線が測定結果
出典:ルネサスエレクトロニクス


車車間通信はクルマとクルマが衝突しないように互いに通信し、車路間通信は、交差点などでドライバーから見えない位置にあるクルマの有無を教えてくれる。要は、より安全により事故を少なくするための通信技術である。

ただし、このチップだけで通信できるわけではない。受信用にLNA(低雑音アンプ)や送信用のPA(パワーアンプ)、帯域通過フィルタBPFなどを外付けし、さらにデジタル出力からホストプロセッサへつなぐ必要がある。ルネサスは、このホストプロセッサ「R-CAR E2」も持っており、ここに顧客独自のアプリケーションソフトウエアや、ITSのプロトコルスタック、V2Xドライバーセキュリティファームウエアを集積することができる。新製品R-CAR W2RとE2とはSDIOで接続する。これらのチップを搭載したV2Xシステムとしてのスターターキット(図3)も販売する。ティア1ユーザーや自動車メーカーはこのままV2Xシステムとしても使うことができるし、カスタマイズすることも可能だ。ルネサスはチップセットや開発キットも含めた販売も行う。


図3 V2Xシステムのスターターキット

図3 V2Xシステムのスターターキット


このV2XシステムはECU(電子制御システム)の一つとして、クルマに組み込まれる訳だが、ルネサスの今回のチップの素晴らしい所は、チップレベルで相互干渉ノイズを抑えられているため、無線モジュール作製が安く済むという点である。ETCの干渉ノイズレベルをクリアしていないモデムチップだと、無線モジュールを製作するのに干渉を抑えるためのフィルタやノイズサプレッサを外付けしなくてはならない。そうなると部品コストが余分にかかり、設計に時間がかかってしまう。R-CAR W2Rを使えば、その心配がないためモジュールの設計を早く安くできる。

ルネサスは、かつてベースバンドモデムのデジタル回路と、RF関係のアナログ回路は2チップ構成にしていた。ノイズ対策が極めて難しかったためだ。デジタル回路は常にクロックパルスを発しており、これがアナログ回路に入るとノイズになる。ルネサスは具体的にどのようにしてノイズを減らしたかは明らかにしないが、アナログ回路とデジタル回路を物理的に分離する、アースのとり方を工夫する、などによってノイズを減らす手法が一般的に使われる。ただし、チップごとにノイズ対策は異なるため、泥臭い努力が求められる。最近では、ノイズ対策はシミュレーションツールである程度、対策のメドがつけられるようにはなっている(参考資料1)。

802.11pは最大出力が28.8dBmと規定されているが、外付けのPA次第で出力を決められる。このチップを使って試験した通信距離は700m以上確保できたとしている。データレートに関しても最大27Mbpsと高速といえないまでもそれなりの速度はある。デジタル変調方式でBPSKやQPSK、64QAMなどを選択するため、プロセス技術もそれに合わせたものを使う。ここでは、RF回路を含め90nmのフルCMOSプロセスで作製した。RF回路として90nm CMOS技術はかなり先端的である。

ルネサスは、V2X普及に向け、欧州の普及促進団体CAR 2 CAR Communication Consortiumに参加し、もちろん国内でもITS Connect推進協議会にも加わっている。そして、欧州でETSI準拠の相互接続試験、北米でもUS DOT接続試験を始めている。相互接続試験(インターオペラビリティ)は、クルマ同士が通信するために絶対不可欠な試験であるため、この試験をいち早く進めることはV2X通信市場で極めて大きなプレゼンスを勝ち取ることができ、この分野で一歩リードしたといえるだろう。

参考資料
1. Mentor、ICパッケージ/PCB設計段階でノイズ解析するシミュレータを発売 (2015/08/28)

(2015/09/29)

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