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走行中も周囲の歩行者を映し出す、ルネサスのサラウンドビューLSI

ルネサスエレクトロニクスは、車載に特化したビジネスを展開してきているが、このほどクルマのADAS(先進運転支援システム)システムに向け、これまでよりも処理能力の高いシステムLSI、R-Car V2Hを開発した。強いクルマ事業をますます強くするルネサスの意向を反映したチップとなっている。その理由をこれからじっくり解説する。

図1 ルネサスエレクトロニクス執行役員常務兼第一ソリューション事業本部長の大村隆司氏

図1 ルネサスエレクトロニクス執行役員常務兼第一ソリューション事業本部長の大村隆司氏


ルネサスは、従来のデバイス売りから、キットソリューション、そしてプラットフォームソリューションという価値の創出を訴求してきたが、その意味を、クルマ事業の責任者である、執行役員常務兼第一ソリューション事業本部長の大村隆司氏(図1)がより明確に述べた。キットソリューションとは、ルネサスが持つマイコンやアナログ、パワーなどの半導体製品をまとめて顧客に提案するビジネス。プラットフォームソリューションとは他社製品でも優れていればそれを採用し、サードパーティも含めたエコシステムを使って、顧客が作りたいシステムを提案するビジネスを指す。R-Carプロジェクトでは130社以上のパートナーがいるという。

今回発表したR-Car VH2は、昨年発表のR-Car H2チップ(参考資料1)よりも、プラットフォームソリューションにずっと近く、チップの応用がより明確に特定されている。昨年のR-Car H2の方がよりハイエンドであるが、ルネサスは昨年R-Car H2を公開することでクルマ事業へフォーカスする強い決意を示しただけにとどまった。今回のチップでは、OSとしてGreen Hills Software社のリアルタイムOSであるIntegrityを使い、ソフト開発環境もGreen Hillsが提供する(図2)。Integrityの上に、ボード開発ツールに必要なBSP(Board Support Packages)ミドルウエアや、MULTIと呼ぶコンパイラ/デバッガーのツールもGreen Hillsがまとめて提供し、ユーザーのソフトウエア開発を手助けする。このチップは、Green Hillsとのコラボの結果であり、ソフト開発を他のサードパーティに担ってもらうことができる。


図2 ソフトウエアも含めたソリューション構成 GHSはGreen Hills Software社<br />
出典:ルネサスエレクトロニクス

図2 ソフトウエアも含めたソリューション構成 GHSはGreen Hills Software社 出典:ルネサスエレクトロニクス


ソフトウエア開発ツールとして、ルネサスがGreen Hills社を選んだのは、マルチコアCPUのソフト開発で定評があった上に、RTOSのIntegrityが自動車向けに欠かせない信頼性と安全性に優れているアーキテクチャを採用していること、さらに自動車の機能安全規格であるISO26262を取得し、ティア1サプライヤから認証を受けていること、などによる。同社のMULTIもコード効率が高く、デバッグ能力も高いため、低コストと開発期間の短縮に結び付く。ソフト開発が短縮できるため、ルネサスにとってのメリットは大きい。

R-Car H2ではARM Cortex-A15が4個集積されたクアッドコアとCortex-A7を採用しており、big.LITTLEアーキテクチャを使って消費電力を下げるというハイエンドなアーキテクチャであった。今回はA15コアをデュアルで使い、しかも集積するコアをもっと特定したものとなっている。CPUがデュアルA15コアだけなのでbig.LITTLEアーキテクチャは使っていない。

R-Car V2Hは、最大6台のカメラからの映像を処理するコアを内蔵し、クルマを走らせながら周囲の人やバイクなどを画像ベースで認識させ、警告を発するというシステムを構成できる。従来のサラウンドビューモニターでは4台のカメラからの画像を合成し、視点をクルマの上から見る位置に固定しているが、このチップでは視点を自由に設定できる。例えば、クルマの後ろから走りながら、人やバイクを認識する映像を描く(図3)。台湾や東南アジアではバイクが車の周りを勢いよく走っているため、このような地域に向く。


図3 人やバイクを検出すると四角で囲み、はっきりさせる ここでの視点は後ろから35度の角度で見た映像となっている 出典:ルネサスエレクトロニクス

図3 人やバイクを検出すると四角で囲み、はっきりさせる ここでの視点は後ろから35度の角度で見た映像となっている 出典:ルネサスエレクトロニクス

技術的には、視点変換、画像認識、画像合成、画像描画(グラフィックス)をリアルタイムで同時に処理する。このために、4台の魚眼レンズで映した広角 (160度) 画像を直交座標に変換するための歪補正IPとしてIMR、独自開発の画像認識回路IMP-X4、画像圧縮用のH.264とMotion JPEGコーデック、グラフィックスとして描くためImagination TechnologiesのグラフィックスIPであるPOWERVR-SGX531などのIPに加え、クルマの映像処理に向いたクルマ用EthernetのEthernet AVBインタフェースなども集積している。IMP-X4で提供する画像認識ライブラリは標準的なOpenCVに対応版を拡充していく。図3の応用では、回路ボードの消費電力は5~6Wだが、R-Car V2Hだけなら1.75Wと小さいという。

今回のデモでは、Ethernet AVBを搭載したカメラがまだ入手できないため、LVDSインタフェースを持つデジタルカメラを4台用いてHD映像(1280×800画素)をリアルタイムで合成した。人やバイクを4台同時に認識している。このチップにEthernet AVBを搭載したのは、車載向けにツィステッドペアの配線ハーネスを使い軽量なうえ、今回のような情報系ネットワークだけではなく将来制御系のネットワークにも拡張できるため。

新製品は9月からサンプル出荷し、2016年10月から量産する予定。サンプル価格は5000円。2017年10月には月産50万個を見込んでいる。

参考資料
1. ルネサス、クルマ向けSoCを充実、近未来のクルマに搭載する機能を満載 (2013/03/26)

(2014/08/29)
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