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アナデバ、800MMACSで95mWしか消費しない新DSPコアを開発

アナログ・デバイセズは、14年ぶりに大きく仕様を変更したDSPの第2世代のBlackfin+コアを開発、それを搭載したプロセッサファミリーADSP-BF70x(図1)を発売した。この第2世代Blackfin+シングルコアは、400MHzと比較的低速でさえ16ビットの積和演算性能が800 MMACS(Mega Multiply-Accumulate per Second)と高く消費電力は95mWと低い。

図1 ADSP-BF70xファミリー製品のブロック図 左はマイコンによる制御系、中央がBlackfin+コアを高速に動かすためのアーキテクチャ、右がさまざまなインターフェースで、これら全てを集積している 出典:Analog Devices

図1 ADSP-BF70xファミリー製品のブロック図 左はマイコンによる制御系、中央がBlackfin+コアを高速に動かすためのアーキテクチャ、右がさまざまなインターフェースで、これら全てを集積している 出典:Analog Devices


このBlackfin+コアは、32ビット×32ビットの積和演算を1サイクルで実行するうえに、16ビット複素数の積和演算でも実数、虚数それぞれの演算に分けても1サイクルで実行する。例えば、FIR(Finite Impulse Response)やIIR(Infinite Impulse Response)のフィルタリング機能を実行する場合には、第1世代のBlackfinと比べで2~3倍の性能が向上しているという。

従来のBlackfin DSPはメモリを外付けしていたため、システムとしての速度はさほど速くなかった。このため、1~数画素程度のIRセンサを組み合わせた認識処理でも生物を一つ発見する程度の用途に限られていた。CMOSイメージセンサやQRコード読み取り程度の画像処理は、物流や生産現場で使われている。しかし、もっと高速な処理が必要な用途では、これまでの16ビットBlackfin DSPでは限界があった。例えば、高音質のオーディオシステムは、24ビットの分解能が標準になっており、これまでの16ビット演算では対応できなかった。

高速アーキテクチャ技術
ADSP-BF70xファミリーには、L1キャッシュメモリとL2キャッシュメモリを内蔵しており、伝送経路を切り替えるためのクロスバースイッチ構成(ここにDirect Memory Accessも内蔵)を導入している。さらに、メインメモリとのやり取りの可能性も含めて、LPDDR/DDR2インターフェースも集積しており、外部メモリ(DRAM)とは16ビットのバス幅で対応する。L1キャッシュは64Kバイトの命令およびデータのキャッシュの容量を持ち、64ビットのバス幅でBlackfin+コアとやり取りする。L1とL2、L3キャッシュとのやり取りの内部バスは64ビットと広い。これらのアーキテクチャによって高速化が図られたため、32ビット積和演算や16ビット複素数演算を1サイクルで実行できるようになった。

加えて、独自のCPUコアを使うシステム制御回路や、一般的なシリアルインターフェースやUSB/CANなどのメディアインターフェースも集積している。これらのインターフェースはオプションで選ぶことができる。オンチップメモリのL2キャッシュは128K、256K、512K、1Mバイトのメモリ容量をオプションとして揃えており、DSPのクロック周波数は、100MHzから400MHzまで選択できる。いわば、マイコンに強力なDSPコアを集積したようなもの。ADSP-BF70xファミリーを8品種揃えている。

マイコン機能に加え、セキュリティも確保している。暗号化ハードウェアアクセラレータを内蔵しており、ソフトIPを保護しているという。また、集積したキャッシュなどのメモリ内容を保護するため、ソフトエラー率を下げる仕組み、すなわちECC(誤り訂正回路)やパリティチェック、CRC(巡回冗長検査:cyclic redundancy check)などのメモリ保護回路を集積している。

従来のBlackfinは14年前の130nmプロセスなどから90nm、65nmへと微細化して来たが、プロセスだけでは性能改善には限りがある。今回は40nmプロセスを利用した上に、前述したようなアーキテクチャの工夫により高速化を実現したため、消費電力を下げることができた。

オプションによってチップの価格は異なり、1000個購入する場合の量産単価は3.99〜10ドル。製品サンプルは出荷中である。量産は2015年第3四半期を予定している。


図2 BF70xの評価ボードやJTAGエミュレータなどハードウエア開発ツール

図2 BF70xの評価ボードやJTAGエミュレータなどハードウエア開発ツール


制御用CPUやBlackfinプロセッサのプログラミングを助ける開発ツールも準備している(図2)。このCrossCore Embedded Studio 1.1.0と呼ぶ、EclipseベースのIDE(統合開発環境)には、デバッガ、コンパイラ、アセンブラ、リンカー、ローダー、アルゴリズムとDSPライブラリまで入っている。C言語ベースでプログラミングできる。Micrium社のRTOSのカーネルである、Micrium µC/OS-IIIおよびµC/OS-IIなどとシームレスに統合できるとしている。

さらに、Blackfin向けのソフトウエアモジュールもライセンス料なしで提供するという。AV関係ではJPEGやMPEG-4などのコーデックの他に、画像処理ソフトウエアとして、映像での動き物体検出や空間変換、レンズ歪み補正など様々な広い用途に使えるアルゴリズムやソフトウエアが豊富に揃っている(図3)。


図3 無料で使える画像処理ソフトウエア群とAVコーデックなど 出典:Analog Devices

図3 無料で使える画像処理ソフトウエア群とAVコーデックなど 出典:Analog Devices


アナデバには、産業用やオートモーティブ、民生におけるビジョン&画像アルゴリズムの専門技術を持つ欧州Embedded Systems Technology (EBSYS)社や、組み込みオーディオ製品と技術の開発を受け持つ米DSP Concepts社、産業用画像処理とアルゴリズム開発の米Twisthink社などサードパーティのパートナーがいる。日本国内にも20社を超えるプロセッサを利用するモジュールを作るサードパーティがいるという。Blackfinコアを用いた今回のシステムLSIの開発をこういったサードパーティがサポートする。

(2014/06/13)

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