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LTC傘下のダストネットワークス、WSN用半導体とモジュールを日本市場へ販売

「全国の老朽化したトンネルや橋梁、建物などにワイヤレスセンサネットワーク(WSN)を配備すれば事故を未然に防げる。原子力発電所に設置すれば安全に放射能を測定できる」。こう述べるのはリニアテクノロジー(LTC)日本法人代表取締役の望月靖志氏。リニアは2011年末に買収したダストネットワークスのWSN製品を日本で発売する。

図1 Dust Networksが提供しているSmartMeshの事例 出典:Linear Technology

図1 Dust Networksが提供しているSmartMeshの事例 出典:Linear Technology


リニアテクノロジーは、産業用製品に強いものの、RFやワイヤレス技術はそれほどでもない。今後の成長が期待される分野として世界中が注目しているIoT(Internet of Things)分野を強化するためにはワイヤレス技術、できればWSN技術が欲しかった。WSN技術の延長線上にIoT技術があるからだ。

一方、ダストネットワークス(Dust Networks)は、WSNですでに実績がある。燃料輸送列車や、産業用プロセス制御モニター、データセンターのエネルギー管理、さらには駐車場のクルマの管理など、120カ国で2万以上のセンサネットワークを稼働させている(図1)。センサノードを空気中のチリ(dust)に例えて多数散布してつなげると、温度や湿度、圧力などさまざまな物理量を24時間・365日無人で測定・モニターでき、工場や巨大なシステムを管理できる。2001年にUCバークレイのKris Pister教授が設立した。

センサノードには、センサだけではなく、A-Dコンバータやマイコン、信号処理回路、DC-DCコンバータや電池などの電源といったさまざまな部品が必要だ。もちろん、チップ上に通信プロトコルや暗号化などのソフトウエア部品も組み込む必要がある。「センサネットワークシステムが得意なダストと、全体のシステムに必要な各種部品を提供できるリニアが一緒になることで完全なソリューションを顧客に提供できる」とダストのCEOであるJoy Weiss氏(図2)は述べる。顧客には、IBMやGE、シーメンス、エマーソン(石油精製の大手)、ABB(重電・オートメーション大手)などがいる。センサは顧客の要望によって市販のものを揃えればすむ。


図2 Dust Networks社CEOのJoy Weiss氏 手に持つものが新製品である

図2 Dust Networks社CEOのJoy Weiss氏 手に持つものが新製品である


ダストネットワークス製品の最大の特長は、産業用で使われている有線のセンサネットワークと同程度の高い信頼性を持ちながら、ワイヤレス動作で電池を10年間持たせるため消費電力を削減していることである。高信頼性と低消費電力を両立させるための技術が彼らの開発したSmartMesh技術である(図3)。これは、時間的に同期をとりながら、センサノードからセンサノードに信号を送り最終的にネットワークマネージャー(これがゲートウェイとなる)に信号を届ける技術だ。ネットワークマネージャーから外のサーバーやパソコンなどへは3GやLTEの通信ネットワークでデータを送る。ネットワークプロトコルはIEEE802.15.4e規格に準拠している。


図3 SmartMeshネットワークは時間同期ですぐにつながる 出典:Linear Technology

図3 SmartMeshネットワークは時間同期ですぐにつながる 出典:Linear Technology


このSmartMesh技術では、あらゆるノードから同じデータを二つのルートで届けている。ルートAが周囲の干渉などでつながらない場合はルートBへ信号を送る。時間的には同期をとりながらスケジュール通りに信号を伝えていく。ネットワークマネージャーはノードがデータを受け取ることができるかどうかを聞いてスケジュールを設定しておく。スケジューリングの設定がこのネットワーク管理のキモとなっている。従来のZigBeeプロトコルは、常にノードに問い合わせているため、消費電力はそれほど減らない。

時間の同期はノード間の接続時間を短縮してくれるが、セキュアな環境として送る時の周波数もチャンネルホッピングを使って変えている。例えば、ノードAからノードBにはチャンネル2の周波数を使い、ノードBからCへはチャンネル6の周波数を使う。次のデータ伝送にはノードAからBへはチャンネル2の周波数ではなくチャンネル9の周波数を使う。乱数表を使って、ランダムな周波数で送れるようにスケジューリングで調整する。チャンネルホッピング技術を利用するためデータは盗まれにくい。

また、消費電力を下げるために、ノードはたいていの時間、眠っている。スリープ時間が長くなるような低いデューティ比に設定する。各ノードにおいてデータ測定・送信のインターバルは数秒から数分の場合が多い。基本的には単3乾電池(1次電池)で5〜6年持たせるように設計するが、サンプリング間隔が200msと短い場合には単1電池を利用するという。2次電池は充放電の繰り返しによって劣化するため、信頼性が低いと見ている。

ノードは短時間で起動させなければならない。センサデータを収集し送信する場合だけ起き上がるようにデューティ比を決める。起動時間はマイクロ秒程度で済むという。また、このシステムではセンサノード間の距離は屋外で300m程度まで通信できる。

日本市場へ出す新製品は、SmartMeshと呼ぶファミリ(図4)で、802.15.4準拠のLTC5800半導体ICと、それを搭載したLTP5900モジュールである。ICには、RF回路だけではなく、RAMやフラッシュメモリ、DC-DCコンバータなどを集積しており、ARM Cortex-M3で制御している。もちろんこのチップにネットワークソフトウエアも搭載している。受信時の消費電流は4.5mA、送信時の消費電流は出力0dBmの時に5.4mA、8dBmの時は9.7mAである。


図4 SmartMeshファミリ 出典:Linear Technology

図4 SmartMeshファミリ 出典:Linear Technology


今後は、μモジュールパッケージへの搭載、あるいは1次電池+エネルギーハーベスティングの利用、などにも力を入れていく。すでにリニアはハーベスティング応用に向け、30mVから3.3Vを出力するDC-DCコンバータを製品化している。

(2013/02/15)

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