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IOT時代を見据えて製品ポートフォリオを広げる中堅半導体企業たち

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センサネットワークシステムがIOT(Internet of Things)へと進化している。これを受けて、米国アナログ・ミクストシグナル半導体のシリコンラボラトリーズ、リニアテクノロジが相次いで、ワイヤレスセンサネットワーク企業を買収、IOT時代を見据えた製品ポートフォリオの充実を図っている。

図1 ワイヤレスセンサネットワークはIOTへと進化する 出典:Silicon Laboratories

図1 ワイヤレスセンサネットワークはIOTへと進化する 出典:Silicon Laboratories


シリコンラボは、ZigBee(ジグビーと発音)規格に強いソフトウエア会社Emberを買収、Ember社の持つZigBee通信規格のプロトコルスタックをフルに利用して、新しいZigBee対応の半導体チップを用意し始めた。狙いはIOTである(図1)。IOTとは、全ての電子機器がインターネットにつながる、という概念であり、つながった機器そのものでもある。

ZigBeeは10年も前から網の目のようなネットワーク構成に向いた通信規格として提案されたが、市場の小さなセンサネットワークにしか使われることはなかった。ある意味で忘れ去られようとしていた。ところが、ここ3〜4年、スマートグリッドからスマートハウス、スマートコミュニティという概念が導入され、さらに東日本大震災による電力不足の点からも家庭内あるいはビル内の省エネ化を図るための通信規格の一つとして、注目を集めるようになった。同時にインテルをはじめとする海外メーカーがIOTという言葉をIPv6と共に使い始めた。

メッシュ構造のネットワークトポロジに向いた通信規格がZigBeeである。これは、センサなどの電子機器を、電波の届く範囲内にある電子機器につなぎ、データを送り、送られた機器がさらに近くの別の機器に送ることによって、ネットワーク出口のゲートウエイまでデータを届ける方式である。遠くまで電波を飛ばす必要がないため、消費電力が少なくて済む。このため電池1本で動かしたり、あるいは電池なしのエネルギーハーベスティング技術を使ったりするワイヤレスセンサネットワークに向いた規格である。

家庭内では、冷蔵庫やエアコン、テレビ、照明などさまざまな電気・電子機器が電力を消費している。いろいろな機器の電力使用量を測定し、見える化することで消費者の電力削減の意識を高め、家全体の省エネ化を図ろうとするのが、HEMS(home energy management system)である。どの機器が今どれだけ電力を使っているかが一目でわかる。ちなみにスマートメーターは、HEMSで得られた電力量のデータを配電網に戻すためのゲートウエイの役割を持つ。HEMSもスマートメーターもスマートハウスに欠かせない装置である。このHEMSシステムをビルディングに応用するとBEMSとなる。この通信規格Smart Energy 1.0はZigBeeをベースにした。家庭内の機器をセンサとみなせばネットワーク構造がセンサネットワークと同じトポロジだからである。

IOTは、ネットワーク内の全ての電子機器を、センサネットワークのセンサと見なしたものだ。つまり、HEMSにせよ、IOTにせよ、メッシュ構造のネットワークを利用する。さらに将来のIOTにはヘルスケアといったBAN(body area network)という巨大な市場も含まれる。だからそれに適したZigBeeが再び注目を集めているのである。そのトレンドをいち早くキャッチ、自社に生かしたのが、シリコンラボでありリニアテクノロジだ。

今回シリコンラボがEM35xシリーズというSoCチップを発表した。Ember社が持っていた市場実績の高いEmberZNetPROプロトコルスタックソフトウエアも付ける(図2)。さらに開発ツールも提供する。ユーザーは、この開発ツールの上で独自のアプリケーションを書いたり、カスタマイズしたりすることができる。シリコンラボは、これら全部をEmber ZigBeeソリューションと呼んでいる。


図2 シリコンラボのZigBeeプロトコルスタック 開発ツールも提供 出典:Silicon Laboratories

図2 シリコンラボのZigBeeプロトコルスタック 開発ツールも提供 出典:Silicon Laboratories


EM351は、ARMのCortex-M3プロセッサコア、IEEE802.15.4に準拠したRFトランシーバ回路、128Kバイトのフラッシュメモリと12KバイトのRAM、そしてZigBeePROの主なセットをサポートするEmberZNetPROプロトコルスタックを集積している。フラッシュのメモリ容量を192Kバイトに増強したオプションEM357もある。Cortex-M3コアを採用したのはスリープ状態からの起動時間が短く、バッテリ動作に向いている、ソフトウエアを利用しやすくコード効率が高いため低コスト化が図れる、といった理由からだ。ワイヤレスセンサ用のMCUとしては無線回路の高性能化が欠かせない。EM351は、ネットワーク内で求められる高い受信感度や送信出力、低い消費電力を特長としているという。

ネットワークソフトウエア会社として出発したEmber社の持つEmberZNet PROプロトコルスタックは、一つのネットワークとして1000単位でノードを拡張できるという。「顧客には3000ノードのネットワークを使いたいと要望する企業もあり、ソフトウエアをカスタマイズできる」とシリコンラボ社ワイヤレス組み込みシステム部門ゼネラルマネジャーのRobert LeFort氏は述べる。同氏によると、このプロトコルスタックは、センサーノードが密集していても堅牢なテーブルマネジメントを使うことで確実につなげられる、ディープスリープの場合にタイムアウトを設定でき消費電力を減らせる、ネットワーク内にZigBee規格を内蔵したモバイル端末が来ても識別・最適化する、といったメリットがある。加えて、セキュリティが高く障害許容力もあるという。

チップ上にソフトウエアスタックを構成するため、開発ツールを4種類揃えている。LSI内部をモニターしてネットワーク全体のパケットを追跡できるPacket Trace Port、ノイズやさまざまなRF信号の影響を受けてパケットが届かなかったり外のネットワークに載ってしまったりすることを防ぐためネットワーク全体を可視化するDesktop Network Analyzer、どのようなビヘイビアも捉え繰り返し起こる異常を切り離せるDebug Adapter、200~300ページもあるZigBee仕様を組み込んだEmber AppBuilder、の四つである。こういった開発ツールには72種類のデバイスを組み込んであり、温度や電圧値などをクリックして選び、簡単にアプリケーションを作成できる。

リニアテクノロジは、最近RF回路の開発も盛んで、ワイヤレス分野を強化している。リニアは2011年12月にワイヤレスセンサネットワーク技術のDust Networksを買収した。Dustは、工業用の無線プロトコルWirelessHART(IEC62591規格)に熟知したベンチャー企業であり、メッシュプロトコルからインターネットプロトコルへシームレスにつなぐSmartMesh IPを所有している。


図3 来年発売予定のLTC5800 出典: Linear Technology

図3 来年発売予定のLTC5800 出典: Linear Technology


Dustの技術に基づく半導体チップ(図3)は、Cortex-M3コアを集積し、SmartMesh WirelessHART製品と、SmartMesh IP(6LoWPANおよびIEEE802.15.4E準拠)製品(LTC5800(SoC)シリーズおよびLTC5900(モジュール)シリーズ)を計画している。2013年の第1四半期に製品化する計画だ。現在サンプル出荷中で、特定の顧客が評価しているところである。

(2012/11/21)

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