Semiconductor Portal

HOME » セミコンポータルによる分析 » 技術分析 » 技術分析(半導体製品)

SiCパワーモジュール、MOSFETの製品化相次ぐ

SiCのパワーモジュールが相次いで市場に出てきた。三菱電機が8月からサンプル出荷を開始、ロームは3月にSiCパワーMOSFETを2個組にしたモジュールを市場に出している。サンケン電気もSiCやGaNのパワートランジス開発に取り組みショットキダイオード(SBD)を13年後半には生産する予定だ。パワーモジュールはSiC MOSFETやSiCショットキバリヤダイオードなどをハイブリッドICのように集積したもの。

図1 DIPタイプのSiCパワーMOSFET+SBDモジュール

図1 DIPタイプのSiCパワーMOSFET+SBDモジュール


SiCはSiよりも低抵抗で、耐熱性が高い、ワイドバンドギャップの半導体材料。材料自身の絶縁破壊耐圧がSiの10倍も高いため、高抵抗にしなくても十分な耐圧が得られる。このためMOSFETは、Siより低いオン抵抗で高い耐圧を実現できる。Siでは、耐圧を上げながらオン抵抗を下げるため、電流を運ぶキャリヤとして電子と正孔の2種類を使うバイポーラ構造を採っている。これがIGBT(Integrated Gate Bipolar Transistor)だ。しかし、IGBTはオン状態からオフ状態にスイッチングする時には少数キャリヤの蓄積時間が余分に残ってしまうため、高速動作ができない、という泣き所がある。

MOSFETには少数キャリヤの蓄積効果がないため高速動作が可能だ。SiCのMOSFETは低オン抵抗・高耐圧・高速と三拍子そろっている。SiCパワーMOSFETは、3相モータや3相交流を制御するのに使われるが、大電流・高耐圧の大電力を高速でスイッチングすると、充放電に必要なコイルやコンデンサを小型にできるというメリットがある。

三菱電機が発表したSiCパワーMOSFETモジュールは、家電モータ制御用と産業用の製品があり、まずは家電用のPFC(力率改善回路)内蔵のDIPタイプの製品(図1)を8月にサンプル出荷する。これは600V耐圧で20Armsを制御する。最大50kHzでスイッチングできる。PFC回路では、2相のインターリーブ方式を使い、180度位相をずらしリップルを打ち消し合うことで、高調波の少ない安定化電圧を発生させる。このDIPタイプのモジュールにはSiC MOSFETとSBDをそれぞれ2個ずつ2組集積している。スイッチング時と直流時の損失を合わせた全電力損失は45%低減できるとしている。スイッチングトランジスタを従来のSi IGBTにしてSiCのSBDと組み合わせたハイブリッドタイプでも損失は12%改善できるという。

さらに2013年1月にサンプル出荷を予定している産業用のモジュールSiC-IPM(1200V、75A)ではさらに損失が低減する。SiC MOSFET+SBDでは70%低減され、SBDだけのSiCでも25%低減される。このモジュールには電流センス機能用トランジスタ、駆動回路、保護回路も内蔵しており、3相交流を駆動するためにSiC MOSFET+SBDを6組集積している。

最も大きな電流をスイッチングするためのパワーモジュールは1200V/800AのフルSiCモジュール(図2)で、MOSFET+SBDを4組集積している。これも電力損失は70%改善されるという。


図2 1200V/800AのフルSiCモジュール 出典:三菱電機

図2 1200V/800AのフルSiCモジュール 出典:三菱電機


三菱電機は電車の回生ブレーキ用のスイッチングデバイス(1700V/1200A)を用意している。これはSiのIGBTとSiCのSBDを搭載したパワーモジュールだが、東京の地下鉄銀座線の新型車両に使われているという。端子をネジで止めるだけの構造にしており、熱と電気抵抗を共に下げやすい。

SiC MOSFETを量産しているメーカーはまだ少ないが、三菱電機は、パワートランジスタの量産の定義を月産1000個以上だとしている。この定義によると、SiCパワーモジュールの量産は2015年くらいだろうとしている。

ロームは3端子モジュールを製品化
ロームは3月にパワーモジュール(図3a)のサンプル出荷を発表したのに続き、6月にはTO-247モールドパッケージに封止したSiC MOSFETとSBDの3端子デバイス(図3b)を発表している。6月からサンプル出荷し7月から量産とプレスリリース(参考資料1)に述べられている。量産の定義を7月に東京ビッグサイトで開かれたテクノフロンティア会場の展示ブースでたずねたが、数量についての情報は答えられないとのことだった。

ロームは1200V/35Aのこの3端子デバイスSCH2080KEに加え、SBDを内蔵しないSiC MOSFET、SCT2080KEも製品発表している。もともとMOSFETには基板pnダイオードが備え付けられているが、pn接合のため高速動作はできない。高速動作させる用途ではSBD内蔵の製品を使う。SBDは多数キャリヤのみのダイオードなので、少数キャリヤの蓄積時間がなくスイッチング動作が速い。テクノフロンティアでは、このトランジスタを利用して1200V、100Aのモジュールを作りスイッチング動作の確認を発表した。スイッチング周波数5kHzで損失を45%削減、20kHzだと63%も削減できている。


図3 SiCパワーモジュール(a)と、MOSFET+SBDの3端子SiCデバイス(b)

図3 SiCパワーモジュール(a)と、MOSFET+SBDの3端子SiCデバイス(b)


現在は、サーバ用の電源やソーラーパネルのパワーコンディショナ、電気自動車用充電器などへの応用を考えているが、今後はもっと電流容量を増やし電気自動車の駆動や電車の駆動への応用に向けたデバイス作りを狙うとしている。

ロームはSiC結晶メーカーのドイツSiCrystal社を2009年に買収、子会社化した。結晶からトランジスタ生産までを手掛けている。製品化したSiC MOSFETは全てプレーナ型の製品だが、研究開発ではよりオン抵抗の低いトレンチMOSを発表している。

パワーエレクトロニクスのサンケン電気もSiCデバイスとして、1200V、10A/20A/30Aの厚さ100μmの薄型MOSFETを開発している。製品は未定だが、600V、10AのSBDは13年後半から4インチウェーハで量産開始すると述べている。

参考資料
1. 世界で初めてSiC-SBDとSiC-MOSFETを1パッケージ化し、量産開始 (2012/06/14)

(2012/08/03)
ご意見・ご感想