MEMSをワイヤレスセンサネットワーク応用へ拡大するアナデバ
アナログ・デバイセズ(Analog Devices, Inc.)は、動作時2μA、静止時10nAと消費電流が極めて小さな3軸MEMSセンサICを8月から量産する。消費電流が小さいため電池駆動のワイヤレスセンサネットワークや、ヘルスケアモニタリング、動物のモニタリングなどの応用(図1)において、電池交換を不要にできる。
図1 MEMS ICをワイヤレスセンサネットワークに応用
このICは静電容量型の3軸MEMS加速度センサにアンプ、12ビットA-Dコンバータ、インタフェース回路などを内蔵し、SPIバスからデジタル信号を出力する。MEMSセンサはくし型構造の静電容量を利用する。容量を電圧に変換し、A-D変換してデジタル信号として扱う。加速度の測定範囲は、±2g、±4g、±8gである。分解能は±2gレンジの場合、1mg/LSBである。
このICをデータレート100Hzでセンサ信号を出力させた時の動作電流が2μAと小さく、スリープモードでは10nAと小さい。さらにスリープ状態から衝撃などの加速度信号を受け取りウェークアップする時の電流でさえ、6Hzのサンプリングで300nA(0.3μA)と小さく、電源の電池寿命を伸ばすことができる。このため、振動や生体の動きを連続的にモニターするという応用に使える。
アナデバの試算では、10μA以上の従来のセンサICだと数カ月から1年くらいしか電池寿命はもたず、間欠動作が必要になるが、動作時で2μAだとデューティ比の設定にもよるが、10年くらいもつ。となるとバッテリを使わないエネルギーハーベスティングの応用をカバーできることになる。しかもバッテリ単価はエネルギーハーベスティングシステムの電源に比べると、安い。
特に無線回路と一緒に装置に入れて組めば応用は広がる。代表的な例として、広大な敷地に張り巡らされたワイヤレスセンサネットワークや、海上にかかる橋、危険な高所での建設現場での強度モニタリングなど電池交換や電源供給がほぼ不可能な場所での利用がある。さらには、徘徊老人や幼児の迷子防止・発見にも使える。特に道に倒れたり、誘拐などで無理やりクルマに連れ込まれたりするときなどの衝撃を検出、データを遠隔地に送ることができる。畜産業では、牛や馬の放牧状態を管理し、急に倒れたり何か身体に異変が生じて動けなくなったりすると遠くにいても検出できる。軍事用途では、爆風にさらされた兵士の衝撃の程度をモニターし、症状を救急性のあるものかどうかを医者がいない場所でも判断できる。
図2 割り込み制御で動きをキャッチする回路
こういった応用には、回路上でしきい値を予め設定しておき、そのしきい値を超えたら異常と判断する、といった利用法がある。例えば図2はその例である。割り込み端子をしきい値制御に使えば、割り込みがかかると電源をオンするといった利用である。割り込み信号が一定期間来なければ、電源をオフにするといった設定もできる。このようにして、何か衝撃を感じたら電源が入るといったシステムを省エネにすることができる。
このADXL362には、温度センサも内蔵しており、衝撃と温度を常にモニタリングできる。加えて、最大512サンプルのFIFO(First In First Out)メモリも集積されているため、加速度と温度のデータを蓄積しておいてある程度たまってから一度に送り出すことができる。データを送りだすとき以外は停止させておくことができるため、システムの消費電力を下げられる。
図3 MEMSから信号処理までの実績で差別化する
アナデバはMEMSセンサに20年以上の実績を持ち、特に初期の加速度センサを使ったエアバッグでは車載用途で認められてきた。最近ではジェスチャー動作の入力デバイスなどでも使われている。微弱なMEMS信号を検出し、A-D変換、デジタル信号処理と一連の回路応用において強い(図3)。