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80cm離れても静電容量の変化を検出できる超高感度ICを国内ベンチャーが開発

静電容量方式で最大80cm離れても容量変化を検出できるICチップを国内のベンチャー企業エーシーティー・エルエスアイ(ACT-LSI)が開発、愛知県江南市のサン電子が販売することになった。静電容量方式センサで数10cm以上離れても近接状況や距離測定ができ、しかも電源電圧が3V系とごく一般的なこのICは「組み込みシステム開発技術展」で大きな反響を呼んだ。

図1 液面計への応用 ビーカーの外側に検出用配線を5本置き水面上昇を静電容量の変化として捉える
撮影協力:サン電子とACT-LSI

図1 液面計への応用 ビーカーの外側に検出用配線を5本置き水面上昇を静電容量の変化として捉える 撮影協力:サン電子とACT-LSI


サン電子はこれまで組み込み系のボードコンピュータなどを手掛けてきた半導体チップのユーザ企業であり、半導体チップの販売は今回が初めて。つまり半導体ベンダーとなった。半導体ユーザが半導体業界に参入したともいえる。しかも扱う製品は、技術的な優位性のかなり高いアナログ/ミクストシグナルICである。このチップを開発、設計したのは国内ファブレスのACT-LSI社。

これまで静電容量の変化を検出するセンサは非接触だが、検出距離が極めて小さかった。iPhoneのタッチスクリーンのように指をガラスに触れるほど近づけなければ検出できないくらい低感度であった。このため静電容量方式ではせいぜい数mm以下の検出しかできない。今回の製品の技術のキモはセンサからの信号を取り出すICチップにある。

東京ビッグサイトで行われたこの展示会で、サン電子がブースで見せたデモは三つあった。一つは、液面計としてのセンサだ。静電容量方式として5本の直線状の配線を用いた。配線間の容量を測定することで、ガラスのビーカーに水を下から吸い上げていく時の水面の高さを測定できる。ガラスの壁を通して配線間容量が水のありなしで変わるからだ。水に触れない水面計として使える。しかも配線間容量を測定しているために水以外の液体やジェル、危険な液体などの液面計としても使えるとしている。ビーカーの右にあるバー状のLEDランプでは、液面が上昇するにつれ、光が次々と点灯していく。

もう一つのデモでは、額(ポートレートなどのプレート)と人との距離に応じてLEDランプが点灯していく。額のガラス板にITO(透明電極)を描いており、ITOと人体との間の静電容量のごく微小な変化を測定する。人体が近づいたことを表示するのは、液面計の例と同様、LEDランプである。図2の額の後ろにある、細長く立てかけている白い物体がLEDランプで、下から順番に距離に応じて点灯する。


図2 額に近づくとLEDランプが下から順に距離に応じて点灯する 撮影協力:サン電子とACT-LSI

図2 額に近づくとLEDランプが下から順に距離に応じて点灯する
撮影協力:サン電子とACT-LSI


最後に示したのは、建物の壁などの応用である。ここでは壁の後ろに銅板を張り付けておく。その壁に誰かが近づけばアラームが鳴るという仕掛けだ。防犯に使える。静電容量の変化を測るため、間に絶縁体があってもそれが変化しない限り検出可能である。


図3 静電容量の変化で物体(導体)を検出するため、対象物との間にコンクリートの壁があっても全く問題ない 撮影協力:サン電子とACT-LSI

図3 静電容量の変化で物体(導体)を検出するため、対象物との間にコンクリートの壁があっても全く問題ない
撮影協力:サン電子とACT-LSI


応用はこれだけではない。工業用、民生用、さまざまな近接センサを低コストにできるこのICを使えば応用は広い。例えばアップルのiPhoneにも近接センサは入っている。iPhoneで通話している間、スクリーンは消えているが、耳から離して通話を終えると画面が現れる。端末から人体が離れたことを近接センサで検出しているのである。

開発したIC製品SS1018は、容量変化を電圧に変換し、さらにA-D変換してデジタルで出力する。容量測定は、容量の絶対値を測るのではなく、あくまでも相対値を測るため、検出アンプのフロントエンドは差動方式になっている。図1の例では、並列に5本の配線が真っすぐに30cmほど伸ばしてあり、ビーカーの表面側に張り付けている。


図4 5本の配線容量で図1の液面を検出

図4 5本の配線容量で図1の液面を検出


外側の2本は接地で、真ん中が配線B、その両側が配線Aとなっている。容量C1は配線Aと接地間、容量C2は配線Bと接地間の静電容量を表し、計測するのは容量C1と容量C2との差である。容量測定には20〜30kHzの交流を用いており、電荷の充放電の平均値として測定する。配線の長さも同じに揃えており、ノイズの影響を打ち消す合う構造にしている。

ACT-LSI社はこれまで静電容量方式のMEMSセンサの開発で実績があり、pFの1/1000の単位のfF(フェムトファラッド)の変化を検出する技術を磨いてきた。ICのフロントエンド回路は秘中の秘。従来、MEMSの圧力センサはメンブレン内に形成したピエゾ抵抗の変化を利用するものが多いが、その理由は静電容量方式の検出技術が難しかったからである。

SS1018は、センサ用ICとして必要な回路も集積しており、感度を調整するためのプログラマブルゲインアンプや温度変化や信頼性劣化を補正するためのデータを格納するEEPROMも内蔵している。出力はシリアルデータでマイコンと直結できる。電源電圧は2.5~3.6V、割り込み出力機能を持ち、出力のデータレートは500kbps。入力可能な検出センサ回路は8チャンネル分を集積している。検出用の出力電流は最大20mA。パッケージは6.5mm×6.4mmのTSSOP20標準品。

ICは0.35μmのCMOSプロセスで設計しており、ACT-LSIは回路設計からシミュレーション、マスク設計まで手掛けており、GDS-IIフォーマットのマスクデータをファウンドリに手渡す。ファウンドリには、ミクストシグナル製品の製造で定評のあるドイツのX-Fab社を利用している。ファブレス半導体メーカーのACT-LSI代表取締役の阿部宏氏(図5)は、センサ用ICとして20年という経験に裏打ちされた製品を提供できると自信に満ち溢れている。


図5 ACT-LSI代表取締役の阿部宏氏

図5 ACT-LSI代表取締役の阿部宏氏


サン電子は、センサとICを販売することに加え、IC単体も販売するというビジネスになる。

(2012/05/18)

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