セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

デュアルDSPコアを集積、ビジョンシステムに特化した画像処理プロセッサ

デュアルコアDSPをベースにして、ビジョンシステムに特化したPVP(Pipelined vision processor)プロセッサをアナログ・デバイセズ社が製品化した。これまでのFPGAやハイエンドDSPは高精度・高速の画像処理はできるがコストが高い。ビジョンシステムに特化させたプロセッサは低コストで、低消費電力のシステムが可能になる。

図1 クロスバースイッチを集積、バスを切り替える 出典:Analog Devices Inc.

図1 クロスバースイッチを集積、バスを切り替える 出典:Analog Devices Inc.


アナログ・デバイセズ社が今回提案したPVPプロセッサBF608とBF609は、デュアルコアの固定小数点DSP、Blackfinをビジョン解析向けに最適化したPVPプロセッサを集積し、広帯域のデータをクロスバースイッチで切り替えるバス・アーキテクチャを取り込んでいる(図1)。画像データを大量に処理するため、148KバイトのL1キャッシュを各Blackfinコアに設け、L2キャッシュを共有メモリとして使い、さらにL3メモリインターフェースも備え、外部とはDDR2メモリを通し16ビット幅でやり取りする。

画像処理のハードウエアプロセッシングを行うPVPプロセッサ部分では、プロセッサの他にBlackfinコアのデータと、3x ePPIインターフェースを通じてCMOSセンサやLCDディスプレイからのデータを管理するピクセルクロスバー回路と、色を制御するαブレンディングのピクセルコンバータであるピクセルコンポジッタ(PIXC)からなる。


図2 PVPプロセッサの回路ブロック 出典:Analog Devices Inc.

図2 PVPプロセッサの回路ブロック 出典:Analog Devices Inc.


このプロセッサは、自動車で走行している時に前方で動く物体を識別、検出、追跡する機能を実現するため、図2のようなブロック構成になっている。入力データは形式を合わせた後、4本のコンボルーション(畳み込み)演算回路に同時に入いる。コンボルーションは、二つの関数を平行移動しながら重ね合わせる演算である。自動車の窓から見えるシーンでは、動く物体が動かない物体と重なり合っている。それらを識別する場合にコンボルーション演算により抽出する。さらにSobel演算によって物体のエッジを抽出し、データを軽くしながら物体を認識する。自動車の運転台から外のシーンを見ると遠近法で絵を描くような景色に見えるが、これを表現するためデカルト座標(X,Y座標)から極座標への変換を行う(図3)。1点から遠くへ広がっていく風景を表す。さらに画像のエッジを分類するPEC(pixel edge classifier)にエッジマップをストアする。エッジを追跡し、直線や円形を検出・変換する。最後に分類して入力データフォーマットへデータをフィードバックする。


図3 クルマのフロント窓から前方を見ると1点に収束するように見える 出典:Analog Devices Inc.

図3 クルマのフロント窓から前方を見ると1点に収束するように見える 出典:Analog Devices Inc.


こういった一連の動作を専用のハードウエアプロセッサで行うことで高速処理することができる。汎用のDSPやFPGAのようにソフトウエアだけで行うと無駄な回路領域が発生するため、消費電力が高くなってしまう。この新型のBF609は25℃の標準動作で400mWと少ない。デュアルコアBlackfinの各コアの動作周波数を500MHzと、さほど高くせずに計算しているからである。

クロック周波数を上げずに計算速度を上げるため、メモリとカメラからのデータを並列処理するパイプライン構造を採っている。これにより、最大5つのビジョン・アルゴリズムを同時に実行させることができる。カメラの解像度は最大HD(1280×960)まで扱える。処理可能なフレームレートは30fps。クルマ用の先進運転支援システムに使えるようにするため、温度範囲は-40℃〜+105℃と広い。加えて、クルマ用の機能安全規格ISO26262に準拠している。

先進運転支援システムでは、前方のクルマとの衝突を回避、歩行者を検知、ハイビームを自動制御、交通標識を認識、白線検出・車線離脱警報などの機能がある。今回のチップは、こういった機能を同時に実行する。

このチップには並列処理するためのメモリ領域が多い。このため、パリティチェックやECC(誤り検出訂正)回路も集積し、エラー検知と復帰用のシステム保護ユニットを充実させている。

画像認識の処理速度をさらに上げたいような用途では、BF609を並列動作させる。このための高速マルチプロセッシング用Link Portを備えている。4本のLink Portだけではなく、このチップは図1のように周辺インターフェースを多数用意している。

もちろん、高速の処理速度をそれほど強く要求されない産業用の画像処理でも使える。例えば、しわや損傷のあるバーコードや反射しやすいパッケージに入ったもの、不明瞭なコードなども読めるようにできる。2次元のコード(QRコード)に汚れや歪み、傾きなどがあっても調整し読みとることができる。セキュリティカメラの画像処理でもCMOSイメージセンサからの画像と侵入者(動く物体)を見分けることができる。駐車場にカメラを設置すれば入出庫車の数を管理し、ナンバープレートも確認できる。

BF60xシリーズの評価ボードとソフトウエア開発ツールも提供する。オープンソースのEclipseベースで構築したCrossCore統合開発環境では、GUIによってコードを生成でき、シミュレーションモデルも含まれている。もちろんデバッグツールも含む。


図4 統合開発ツールも用意 出典:Analog Devices Inc.

図4 統合開発ツールも用意 出典:Analog Devices Inc.

(2012/04/12)

月別アーカイブ