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使いやすさがマイコン成長の道、ルネサス/シリコンラボがGUI開発環境を充実

半導体の応用分野が広がってくるにつれ、半導体チップはこれまでとは違い、いろいろなユーザがいかに簡単に設計できるかどうかが、重要になってくる。一部の先進ユーザに向けて性能を競争する時代ではなくなった。いわば素人に近いユーザでもマイコンを設計できるツールを開発しサポートすることが半導体企業の重要な役割となった。

昨秋ルネサスエレクトロニクスが発売した「Smart Analog MCU」の評判がすこぶる良いようだ。性能が高い訳ではない。機能が多い訳でもない。消費電力の低さを競っている訳でもない。しかし、「誰でも使える」、という設計思想が底流にある(図1)。3月になり、ミクストシグナル技術に長けたシリコンラボラトリーズ(Silicon Laboratories)社が発表した32ビットマイコン「Precision32」もルネサスの思想と同様、使い勝手を最重視している。


図1 GUIによる使いやすさ重視のアナログ・マイコン開発環境 出典:ルネサスエレクトロニクス

図1 GUIによる使いやすさ重視のアナログ・マイコン開発環境 出典:ルネサスエレクトロニクス


ルネサスの「Smart Analog MCU」では、低消費電力の16ビットCPUコアを集積しており、アナログフロントエンドを自由に選べる方式になっている。RL78コアを集積したこのマイコンでは、アンプやローパスフィルタ、可変レギュレータ、コンフィギュアラブルアンプ、オンチップ温度センサなどのアンプ群とチャンネル数、ADCなどを選択するためのツールが充実している。CPUコアは低消費電力であるが、それを売り物にしている訳ではない。使いやすいGUIを利用して、アナログ回路などを選択できるだけではなく、回路を動かした時の信号波形も開発環境のシミュレーションで見ることができる。ターゲットとなる応用はセンサからの信号処理である。工業計測用の圧力伝送システムだけではなく、民生用のセンサで検出した光や機械的な動作、などの信号もフロントエンドで処理しマイコンへとつなぐ。

これによるユーザーメリットは、なんといっても短期間で自分の好きなように計測制御したい回路を設計できることであり、また1チップにアナログもマイコンも集積しているため実装面積がぐっと小さくなることである。従来は個別素子や小規模のICで回路基板を構成していた。例えば、ディスクリート部品で構成されていた従来のセンサシステム基板と比べ、部品点数は1/10、基板面積は1/4と小さくなり、消費電力も20%削減できるという。

マイコンとセンサのアナログ回路を1パッケージに入れることで、回路構成や特性をダイナミックに変えられることもメリットだ。例えば出荷前のセンサの特性バラつきを入力アンプの抵抗を切り替えることでトリミングすることで減らしたり精度を上げたりすることができる。初期のバラつきに対応するだけではなく、経時変化で特性が変化した場合にも抵抗値をトリミングしセンサシステムを最適にできるため、システムの寿命を長くできる。加えて、位置センサや温度センサなど、複数のセンサを測定する用途には、時分割で各センサをダイナミックに調整することにより、装置の小型化も実現できる。

Smart Analog MCUが昨年11月に発表された時には20種類程度のセンサしか対応できなかったが、今では38種類のセンサに対応できるようになった。その中には、フォトダイオードや圧力センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ、歪ゲージ、温度センサ(サーミスタや焦電効果、熱電対などを利用)、磁気センサ(磁気抵抗やホール素子を利用)などがある。こういったセンサに対して工業用では計装アンプが必要になり、またフォトダイオードセンサではI/Vアンプ、温度センサや磁気センサには非反転アンプが必要となる。センサごとに対応させるアンプが異なる。だからSmart Analog開発環境が必要となる。

製品には、アナログ回路を集めたSmart Analog ICとMCUを別チップで同一パッケージにSIPで収めたファミリーと、シングルチップでMCUとアナログ信号処理を実現したものとがある。MEMSセンサの場合は、バラつきが特に大きいため、常に調整すべきデータをデジタル値で持っていたいという要望がある。この場合はMCUの中のEEPROMにトリミングデータを入れておき、動作している最中でも常に微調整できるようにしておく。


図2 各種センサに合わせたハードウエア開発のドーターボード 出典:ルネサスエレクトロニクス

図2 各種センサに合わせたハードウエア開発のドーターボード 出典:ルネサスエレクトロニクス


ルネサスが提供するSmart Analogの開発環境では、回路図入力をGUIで設計・検証できることに加え、センサごとのドーターボードといったハードウエアの開発ボードも準備している(図2)。これらの開発ボードはUSBからの電源で動作するため、パソコンさえあれば回路設計が可能になる。もちろんマイコンのソフトウエア開発環境CubeSuiteも、エディタからコード生成、コンパイラ/リンカー、解析ツール、デバッガ、シミュレータ、書き込みツールなどマイコンのプログラミングに必要なツールもすべて揃えている。

ルネサスは今後もアナログ・マイコン一体化をモノリシックとSIPと共に進めていく。次は自動車市場などに向けた製品のロードマップを描いている(図3)。


図3 ルネサスが描く製品ロードマップ

図3 ルネサスが描く製品ロードマップ


32ビットマイコンも準備
ルネサスのマイコンに対して、シリコンラボの製品Precision32ファミリーは、32ビットのARM Cortex-M3コアをCPUとするマイコンにアナログ回路をプログラマブルに搭載したもの。これまで同社は8ビットの8051コアをベースにしたマイコンにアナログ回路を集積した製品を累積で10億個出荷してきた実績がある。8051コアは無料で使えたため数量は多かった。しかし、8ビットマイコンだと内蔵するRAM容量は256バイトしか集積できない。16ビットでは64Kバイトまで、32ビットでは4Gバイトまでアドレッシングできる。

シリコンラボがこのマイコンを開発するに至った背景は、数100名のエンジニアと会いヒアリングした結果をフィードバックしたことにある。マイコンのユーザは、複雑な設計や急な仕様変更を要求することに加えて、低消費電力と低コストも同様に要求する。それらに応えるためにはICを短時間で設計しなければならない。ユーザのこういった悩みを解決しようと考えて出した答えが今回のマイコンファミリーだ。

図4 GUIベースのマイコン開発環境はプログラミング不要 出典:Silicon Laboratories

図4 GUIベースのマイコン開発環境はプログラミング不要 出典:Silicon Laboratories


このチップの設計思想は、ルネサスがセンサという応用に最適化するための開発環境を充実させたのに対して、シリコンラボはできるだけ汎用の32ビットシステムを作るための開発環境を提供している。シリコンラボもやはりGUIベースで動作する開発ツールAppBuilderを提供する。「ユーザはこれまで、データシートを読みレジスタセットを勉強してから設計していたが、いらいらしていた。これらを読まなくても済むようにGUIベースのツールを作った。GUIから機能を選択し、修正も割り当てもできる。しかも自動的にソースコードを生成してくれる」と同社は言う。ユーザの設計時間の短縮を何よりも優先した(図4)。

シリコンラボは、どのような周辺回路を選べばユーザがフレキシビリティを最大にできるか、を考えた。この選択次第でプリント回路基板の設計が変わってくるからだ。そこで、ICチップ内にインターフェースを含む2種類の周辺回路をユーザが自分で選び切り替えられるように、デュアル構成のクロスバースイッチ回路を考案した(図5)。周辺インターフェースを選ぶことでチップとプリント基板のピン配置や配線が明らかになり、基板設計が楽になる。インターフェースの周辺に欠かせないアナログ回路も揃えた。アナログに強いシリコンラボは、マイコンにアナログ回路を集積しても、保証する温度と電圧の範囲内で動作できるという。


図5 デュアル回路構成をクロスバースイッチで切り替える 出典:Silicon Laboratories

図5 デュアル回路構成をクロスバースイッチで切り替える 出典:Silicon Laboratories


加えて、IC全体のシステムレベルからの消費電力を下げるための問題に対しても、周波数と電圧を選べるようにした。特に周波数に関しては、動作を休んでいる時に周波数を落とせるようにPLL回路を内蔵、動作中にもダイナミックに1~80MHzの範囲で自由に変えられるようにした。標準的なインターフェース回路は5Vないし3V系だが、ARMコアのような内部回路は動作電圧が低い。このため内部にレギュレータやDC-DCコンバータを集積するが、外部のUSB電源も利用できるように柔軟性を持たせておく。このためにUSBレギュレータを内蔵した。外部の水晶発振器や電圧レギュレータ回路、さらには静電容量式タッチセンサ入力回路も集積したため、外付け部品点数が減りBOMコストも低減する。

製品仕様としては、フラッシュサイズは32〜256KB、5種類のリード有り無しのパッケージ、QFN-40からLGA-92までさまざまなピン数を選ぶことができる。周辺回路では最大300mAの高電流駆動するための6本のI/Oも選べるため照明用LEDやモータ、パワーMOSFETの直接駆動、などができるようになっている。

(2012/04/04)

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