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MEMSマイクを敢えて2チップ構成にして成長分野へ応用広げるAkustica

米東部のMEMS専門メーカーであるAkustica社は、音声認識、テレビ会議などへの応用を強く意識したアナログ出力のMEMSマイク、AKU340を開発した。音声に混入するノイズを低減する機能(ノイズキャンセラ)はスマホでは欠かせなくなってくる。そのためには複数個のMEMSマイクが必要。なぜか。電話インタビューでその狙いを聞いた。


図1 Akustica社がサンプル出荷するMEMSマイクの実装形態

図1 Akustica社がサンプル出荷するMEMSマイクの実装形態


AKU340の特長は、ノイズに対する信号の比S/N比が63dBと高く、マイクの感度とそのバラつきが-38dBV/Pa±2dBと高感度で、バラつきの小さなマイクロフォンであること。バラつきを低減・管理するため、マイク機能をMEMSマイクと信号処理CMOS回路の2チップに分け、しかも出力をアナログにして汎用性を持たせた。

同社はこれまで、デジタル出力のMEMSマイクを販売してきた。デジタル出力のチップではMEMSメンブレン部分も1チップに集積しており、0.87mm角のチップで、パッケージに入れた実装面積は3.76mm×4.72mmという製品を出していた(参考資料1)。AkusticaはMEMSマイク用のノウハウを着実に身に付けており、今回は敢えてアナログ出力で、しかも2チップ構成にした。MEMSマイクではメンブレン部分はパッケージ外の大気中から音を拾わなければならないため、回路チップを重ねることができない(図1)。このためチップ面積はさほど小さくならなかった。今回、アナログ信号処理チップとMEMSチップをそれぞれ最適化することで、パッケージ面積は3.35mm×2.50mmとむしろ小さくなった。

同社製品マネジャーのEric Bauer氏は電話インタビューの中で、MEMSマイクの場合は、MEMSメンブレンの大きさにS/N比が依存するため、むやみに小さくはできないと述べた。メンブレンを小さくするとS/N比が下がってしまう。このため、1チップに信号処理回路を集積しようとしても、MEMSメンブレンの面積を小さくできないため1チップ化するメリットはそれほど大きくない。パッケージ面積でみればアナログとの2チップにする方がむしろ小さくなると話す。


図2 Akustica製AKU340のスペック

図2 Akustica製AKU340のスペック


Akustica社がアナログ出力の2チップMEMSマイクを出してきた背景には、マイクのノイズをキャンセルしたいというユーザーからの強い要望がある。一般的な通話だけでも、ノイズキャンセルの要求は強い。スマホやタブレット、Bluetoothヘッドセットなどで話し手の声に周囲のノイズが混入しないようにしたい。通話の妨げになるばかりではなく、iPhoneのSiriなどの音声入力では認識率の下がる恐れがあるためだ。音声認識は今後成長の期待できる分野である。ノイズキャンセラには、複数のマイクからの信号の位相を180度反転させて打ち消す方法や、あるいは周囲の雑音を拾いその特徴を抽出し減衰させるアルゴリズムを使う方法などがある。いずれの方法もマイクからの信号をノイズも含め忠実に拾うことで実現できる。

この結果、マイクに求められる性能として、感度やS/N比を上げることと、複数のマイク間のバラつきを減らすことがマストになる。アナログ出力回路とMEMSマイクの両チップはそれぞれ妥協することなく独立に最適化できるため、性能が上がるという訳だ。加えて、今回の新製品には低音周波数領域の感度も高いという特長がある。広い周波数領域から50Hzという低音でも感度の低下は5dB未満としている。レコーディングする場合や低音を検出するような応用に使えるとしている。

デジタル出力のMEMSマイクはむしろ1チップで大量に使われ低コスト化を追求する、一般のマイク機能を実現するような応用に向く。いわゆる1チップソリューションだ。この応用でのカギは高集積かつ低コスト技術である。

同社は、MEMSマイクの信号処理回路にはソフトウエアアルゴリズムなどの集積度を要する機能は入れない。むしろ、オーディオコーデックやモバイルプロセッサにそのような機能を持たせられる。ユーザーエクスペリエンスに近いアルゴリズムの開発はMEMSメーカーとしては行わないが、その応用からMEMSマイクに求められる機能・性能の実現にフォーカスしている。

今年の第2四半期に生産を立ち上げ、第3四半期には月産数百万個以上の量産体制に入る予定だ。同社はMEMSファブもパッケージ技術もインハウスで持っているが、量産にはファウンドリを利用する。この製品の製造にはドイツのシュトットガルト近郊のRobert Boschの工場を使うという。Akusticaは米国カーネギーメロン大学から2001年にスピンオフして設立された会社であり、2009年にドイツのRobert Boschによって買収された。BoschグループのMEMSマイクの専門会社という位置付けだ(図3)。Bosch自身にもMEMS部門があり、子会社のBosch Sensortecもある。しかし、MEMSマイクを手掛けるのはAkusticaだけと分業が成り立っている。


図3 AkusticaはBoschグループの一員 出典:Akustica

図3 AkusticaはBoschグループの一員 出典:Akustica


参考資料
1. MEMS特集:デジタルマイクICに徹するAkustica、水晶置き換え狙うSiTime (2011/05/19)

(2012/03/28)
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