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ウォルフソン、携帯機器の音を追求するソリューション企業へ変身中

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英国スコットランドのエディンバラを拠点とするウォルフソンマイクロエレクトロニクス(Wolfson Microelectronics)が、スマートフォンやタブレットPCなど電池動作の携帯機器に使われるオーディオをより高音質で聴けるシステムをセットメーカーに提供する。このファブレス半導体は、システムシリューション企業に変身しつつある。

図1 オーディオのソリューションプロバイダへ変身中のWolfsonチーム

図1 オーディオのソリューションプロバイダへ変身中のWolfsonチーム


1876年にアレキサンダー・グラハム・ベル氏が発明した電話で発した最初のメッセージが「ワトソン君、ちょっと来てくれたまえ」だった、という逸話は有名だが、ベル氏はスコットランド生まれの英国人。2011年最先端のスマートフォンを動かすマイクロプロセッサは同じ英国のARM社。今や英国には携帯端末を狙った半導体チップやIPのベンダーがARMの他にもCSR社、Imagination Technologies社などが控えている(参考資料1)。ウォルフソンもその中の1社だ。ウォルフソンが狙うのは、携帯機器の中のオーディオ部分。

それも携帯機器のオーディオなら何でもござれ、というほどのシステムソリューションプロバイダーを目指す。会社のロゴと一緒に「a passion for great audio」という標語を掲げている。もはや単なる半導体部品の提供者ではなく、「システムソリューションプロバイダーにシフトしている最中だ」と明言する(図1)。携帯電話システムに使われる音作りの中心となるDSP設計スキルとソフトウエア開発能力、さらに携帯電話システムの音に関するソフトウエアまでも手掛ける。

同社は、10年以上前にDクラスアンプ技術を三洋電機にライセンス供与するなど、ミクストシグナル技術の中でもオーディオを得意とし、さらに携帯電話機用のオーディオハブと称するコーデックやオーディオ処理回路のIC製品を充実させていた。オーディオはかつてのリビングルームでハイファイ音楽を聴くというライフスタイルから、いつでもどこでもハイファイ音質の音楽を楽しむという時代に変わってきたことを捉え、同社はスマートフォンやタブレットPCなどへのハイファイオーディオへのニーズの手応えを感じている(図2)。「有名な携帯電話機メーカーや通信キャリヤから、高音質のオーディオを次世代機に搭載したいというニーズが高まっている」と同社マーケティング&アプリケーション担当VPのAllan Hughes氏は言う。


図2 応用分野ごとの売上高の内、携帯電話用が最大 出典:Wolfson Microelectronics

図2 応用分野ごとの売上高の内、携帯電話用が最大 出典:Wolfson Microelectronics


このためにMEMSマイクロフォンを設計開発しているメーカーOrigon社を2007年に買収、続いてノイズキャンセル技術のSynaptics社を買収、2011年になり補聴器やヘッドセットなどにノイズキャンセラを開発していたDynamic Hearing社も買収、携帯オーディオを全てカバーできるようにした。

ウォルフソンはもともとアナログやミクストシグナルICのファブレス企業だったが、オーディオの世界がアナログからデジタルへと変わってきていることに対応して、デジタルのスキルを磨くようになってきた。デジタルのスキルとはアルゴリズムやソフトウエアの開発を指す。周辺ノイズをキャンセルする技術でさえソフトウエアによって行う。「われわれはこれをサウンドウエア(soundware)と呼ぶ」(Hughes氏)。このサウンドウエアは、コーデックだけではなく、サラウンドやノイズキャンセラなどさまざまな機能を実現する(図3)。


図3 ウォルフソンの基本プラットフォーム 出典:Wolfson Microelectronics

図3 ウォルフソンの基本プラットフォーム 出典:Wolfson Microelectronics


スマートフォンは現在の5億台から2015年には10億台に上ると見られており、スマートフォンのニーズをつかんでいれば大きなビジネスチャンスがある。スマホにはWi-FiやBluetooth、GPS、音声通信、VoIPなど機能が多い。しかもこれらがときどき並列して動く場合もある。極めて複雑になってきている。音質の高さ、低消費電力、低コストも同時に求められる。こうなるとスマホの差別化要因は技術的には、デジタルではアルゴリズムであり、アナログでは高音質を作り出すスキルなどになろう。サービス的には、顧客が機能を簡単に追加したり設計したりできるようにするためのフレームワーク(プラットフォーム)を提供することも差別化要因になる。同時に標準的なサードパーティによるツールやライブラリも揃える。ウォルフソンはこういったハード/ソフト技術+サービスを用意している。例えばハイファイDSPコアを提供している米TenSilica社の多くのアルゴリズムも使えるようにしている。

同社は、スマホやタブレットを使って電話会議を行う場合を想定して、新しいビームフォーミング技術を開発中だ。これは、例えば6cm離れた人と60cm離れた人を識別したり、会議中歩きながら話をしてもその声を追跡したりする機能である。これは、特別な角度以内にある音だけを選択して拾う技術であり、感度を上げるための電波のビームフォーミングと似たような技術である。歩きながら話す人をダイナミックに追跡する機能もある。二つのマイクを使えば比較的容易に追跡できる。次のステップとしては、もっと多くの人、例えば6人の声を追跡するアルゴリズムが必要となるという。

こういったアルゴリズムは、自社開発だけではなく、ユーザー、サードパーティにも開発を依頼している。自社開発したアルゴリズムの能力が足りなければ、それをオープンにして大学やサードパーティに依頼する訳である。

スマホやタブレットなどの携帯機器では、アプリケーションプロセッサにオーディオプロセッサを集積しない傾向があるという。かつては全てを集積することがあったが、音質が悪く、しかもアナログ回路をデジタル回路ほど微細化できないことがあり、コスト的に見合わないからだ。オーディオプロセッサを左右2チャンネル分集積することは難しいと昔言われたが、これはシステムインテグレーションとソフトウエア、音響技術のバランスであり、低コストでいかに早く設計するか、が焦点となるとしている。このため同社は半導体のデジタル技術者に加え、DSPプログラマやLinux、Windows Phoneプログラマを採用してきた。この結果、従来の部品メーカーからソリューションプロバイダへと変身できるようになってきた。デザインハウスとして創業し、ファブレス半導体をメインにやってきたためソリューションプロバイダへの変身は、部品メーカーから変身するよりはやさしいと語る。

今後、スマホではさまざまなジェスチャーUI(ユーザーインターフェース)を使うようになるだろうが、ウォルフソンとしてはボイスコントロールや超音波を利用するUIもありうると考えている。

参考資料
1. 津田建二「欧州ファブレス半導体産業の真実」日刊工業新聞社刊(2010/11/30)

(2011/12/27)

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