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トライデント、画質改善チップでテレビとインターネット融合を推進

民生用半導体ファブレスの米トライデントマイクロシステムズ(Trident Microsystems)がテレビやセットトップボックス(STB)用の画質改善ICのロードマップを発表した。2次元画像から3次元画像を作り出したり、フレーム周波数を240Hzと4倍速にしたり、画面サイズ21:9というシネマスコープのアスペクト比に対応したりするなど次世代テレビ向け技術を満載している。

図1 Trident CEOのBami Bastani氏

図1 Trident CEOのBami Bastani氏

トライデントはカリフォルニアに本社を置く多国籍企業であるが、テレビやSTBといった民生用半導体を設計するためには民生市場が大きいアジアに設計リソースを置いている。1300名の全世界の従業員の内、米国には10%しかいない、と同社CEOのBami Bastani氏(図1)はいう。NXPのテレビ用半導体を昨年買収したため、オランダやドイツ、アイルランドに研究開発チームを置き、さらに台湾の台北と高雄、中国の上海と深せん、インドのバンガロールとハイデラバードにも研究開発チームがいる。総勢1000名が研究開発とエンジニアリングに従事しているという。アジアの中でも上海には600名もの従業員がいて、カスタマサポートとオリジナルIPの開発に取り組んでいる。


図2 トライデントの狙うハイエンド・ミッドレンジ分野 出典:Trident Microsystems

図2 トライデントの狙うハイエンド・ミッドレンジ分野 出典:Trident Microsystems


同社はコネクテッドテレビというインターネットと接続することを前提としたコンテンツを見ることのできるようなテレビやSTB向けの画質改善チップに注力する。それもローエンド向けのテレビではなく、ミッドレンジからハイエンド市場を狙っている(図2)。昨年発表した、フレーム周波数120HzのMEMC(motion estimation / motion compensation:動き予測・動き補正)技術を使った21:9のアスペクト比を持ち3次元映像に対応するテレビ用チップTV550を量産しているが、今後はTCP/IP接続させ、アプリをダウンロードしAdobe Flashをデコードできる「コネクテッド」機能や240Hz対応などの機能を付けていく。モバイル機器にも載せられるような低消費電力化も計画している。

グラフィックス機能では、英イマジネーションテクノロジーズ社のグラフィックスIPのPOWERVRシリーズを集積、OpenGL2.0でFlashコンテンツをデコードしたり、3次元グラフィックスGUIを使えるようにしている。また、インターネットコンテンツと地デジ放送を同時に見られるデュアルHDデコード機能なども搭載する。

画質改善技術では、自社開発したMEMCでは240Hzにも対応できるだけではなく、21:9の広いスクリーンをカバーし、2次元から3次元への変換技術も搭載する。FRC(フレームレートコンバータ)では基本となる60Hzから120Hzあるいは240Hzに変換する。ここでは変換の際に発生しがちなノイズを低減する技術や、一部分だけコントラストを強調するエンハンサー技術などを駆使し、スムーズな画像を得られるように工夫している。


図3 シェーディング処理によって奥行き情報を加える 出典:Trident Microsystems

図3 シェーディング処理によって奥行き情報を加える 出典:Trident Microsystems


2次元から3次元画像を作り出すアルゴリズムも自社開発し、単なる色だけではなく、シェーディング(影)情報と共に3次元画像を作り出す。ビデオフレームにおいて、シェーディング情報を使えば、前にある物体と後ろにある物体を認識するため、前にある物体に隠れている部分を奥行情報とすることができる(図3)。作製した3D用のコンテンツは、ラインインターリーブ方式で3次元映像として映し出す。これはフレームレートを120Hzにして左目と右目の映像をライン1本ずつ交互に見せることで、3Dとして認識するもの。右目の映像と左目の映像を眼鏡で切り替える必要がないため、電池を内蔵せずにすみ眼鏡を軽くできる。

加えて、携帯機器用のAndroidにも対応するようにAndroidのアプリをテレビにインストールして大画面テレビでも楽しめるような回路も搭載しているという。21:9というアスペクト比の仕様を開発したのは、テレビのスクリーンで16:9の従来の映像の横にインターネットブラウザ画面も映し出せるようにするためである。このためテレビ映像のメタデータにAndroid情報を提供できるようにしている。

これらのチップの内、アンドロイド対応のFusionはサンプル出荷中、コネクテッドテレビ用のUXLシリーズ、フレームレートコンバータチップFRC-Xは共に来年の第1四半期にサンプルを出荷する計画だ。

わずか1300名の会社だが、トライデントは画質改善用ICを次々と開発、1年で2種類の半導体チップを開発していく予定である。このためにはIPの再利用は欠かせない。さらにユーザーごとにOSやCPUアーキテクチャが違っても適切に設計できるようにHAL(hardware abstraction layer)の開発に注力している、とBastani CEOは言う。同氏は、ファブレス半導体メーカーがSoCを続々開発していくためにはソフトウエアエンジニアが不可欠で、開発の仕事の半分はソフトウエア開発に注がれている、と述べる。

(2011/08/15)

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