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自動車向けブラシレスDCモーターを推進する欧州の3軸制御ホールIC

今年の「人とくるまのテクノロジー展」では、国内の大手半導体メーカーがローム1社であり、電気自動車やSiCといった派手なテーマの新規なモノは姿を消した。日本の自動車、半導体メーカーは震災の影響で出展どころではなく、供給することが精いっぱいの状況であったであろうことをうかがわせた。むしろ、パワーステアリングやヘッドランプ制御などに使われるモーター駆動用の3軸磁界センサーICなどを欧州アナログ2社が出してきた。

図1 AustriamicrosystemsのシニアVP兼GMのBernd Gessner氏

図1 AustriamicrosystemsのシニアVP兼GMのBernd Gessner氏


Austriamicrosystems社は、売り上げ構成が産業&医用が54%、民生&通信が33%、自動車が13%となっているが、今後自動車市場に力を入れていく、と同社シニアVPでジェネラルマネジャーのBernd Gessner氏は述べる。自動車用途では、0.35μmの200mmウェーハ工場をオーストリア国内に持ち、生産能力は年間10万枚と小規模であるが、数量の多い製品には外部のTSMCとIBMをファウンドリとして使っている。高性能な製品にはSiGeバイポーラプロセスを使い、また20Vというような高耐圧プロセスも揃えている。

同社の自動車市場での売上比率は低いものの、その半分は日本の自動車市場だという。同社にとって「日本の自動車市場は極めて重要であり、日本に分析ラボを設置する予定だ」と同氏は語る。

モーター = 電気自動車という訳ではない。ガソリン車でさえちょっとしたモーターは山のように使われている。トランスミッションやサスペンション制御からパワーウィンドウ、パワーステアリングなど、カム・シャフト部分にモーターが多数使われるようになっており、2005年には50〜60個程度だったのが、2010年には100個を超え、2015年には200個を超えると言われている。

電子モーター制御は回転数、向きの変更が容易
これまでは、回転運動が必要な、例えばファンの動力にはエンジン駆動が使われてきたが、最近ではモーター駆動へと代わってきている。電子制御によって簡単に回転数、回転の向きなどを変えられるからだ。座席を前後へ動かす、倒す、起き上がらせるなどの動作や、ハンドル位置の適正化など、ちょっとした用途だけではなく、機械主体の動作からX-by-wireといったエレクトロニクスを多用する動作への用途に向かっている。

このためモーターを制御するためのホールセンサー(ホール効果を利用した磁気センサー)やセンサー信号を処理するための制御IC(マイコンでも可)が大量に使われる。特に自動車ではモーター軸の摩擦を回避しノイズの少ないブラシレスDCモーターへの要求が強い。ブラシレスDCモーターでは、回転子の位置を検出するため磁界を検出するホール素子が必要で、特に回転を右回り・左回りと二通り必要とする用途では、3相(120度ずつ回転する)モーターが必要となることから、一つのモーターにホール素子を3個使う。すなわち、モーター数が多ければ多いほど、市場が広がるという訳だ。欧州のメーカーは、この市場に入ってきていたのである。

今回の展示会では、1チップでX、Y、Z方向の3軸の磁界を検出できるホールセンサーと信号処理回路を集積したAS54xxシリーズ製品を発表した。パワーステアリングの回転角度を検出したり、ジョイスティック、ヘッドライト位置センサー、サイドミラーなどの計測制御などの用途を狙う。IC上にA-DコンバータやDSP、コーデック、制御ロジック、パワーマネジメント、通信インターフェース、EEPROMなどを集積している。EEPROMは直線性の補正データを記録し、自己診断機能などに使う。出力はシリアルデジタル信号である。展示会では3次元のエンコーダに搭載していた。

図2 今回の新製品の一つAS5403自動車向けホールIC 出典:Austriamicrosystems

図2 今回の新製品の一つAS5403自動車向けホールIC 出典:Austriamicrosystems


AS54xxシリーズ製品は、X、Y、Zの3軸を検出できるように、それぞれのセンサーを配置すると同時に、ノイズの影響を打ち消すため差動増幅検出を基本とする。さらにもう一段差動にして検出精度を上げている(図3)。


図3 X、Y、Z3軸のホールセンサーレイアウト 出典:Austriamicrosystems

図3 X、Y、Z3軸のホールセンサーレイアウト 出典:Austriamicrosystems


今回展示していた欧州のメーカーの中でMelexis社は、磁界に対してアナログ出力をプログラムできるホールIC、MLX91207を展示していたが、これは磁界の向きに対して垂直にICを置き検出する。今年中には水平方向に置いて磁界を検出するMLX91206を市場へ出してくると、日本の販売代理店であるスター・エレクトロニクスは述べている。

人とくるまのテクノロジー展が終わった次の週の5月24日に、Melexis社はAustriamicrosystems社と同様、3軸の磁界を検出するホールICを発表した。アナログあるいはPWM(パルス幅変調)出力が可能なMLX90360と、シリアルデジタルデータSPI出力のMLX90363の2種類を製品化した。どちらも安全制御の検出を主な用途としている。MLX90363のデジタル出力のICは市販のマイコンとペアで使うことで、チップ上に集積した温度センサーや内部の診断機能のデジタルデータをマイコン(マイクロコントローラ)に送り制御を精密にすることができるようになる。

Micronas社は、ホールICと一緒に使ってブラシレスモーターを制御するための8ビットマイコンを2月に発表している。このHVC2480Bフラッシュマイコンには3相モーター制御用のドライバ回路を集積しており、ホールセンサーからの位置を検出するためのコンパレータも内蔵している。安定化されていない12Vのバッテリ電源から直接駆動し、しかも周辺回路向けに5Vの安定化電源出力を提供する。PWM回路も内蔵しているため、サイン波出力や空間ベクトル変調によるモーター駆動も可能だとしている。

(2011/05/27)

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