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ウォルフソン、Cortex-A9アプリプロセッサ狙いのパワーマネジメントICを製品化

英国スコットランドのウォルフソン・マイクロエレクトロニクスは、定格電流1.2AのDC-DCコンバータ2個と1.0Aを2個、さらに10個のLDO、1個の常時オンのLDOと制御回路を集積したパワーマネジメント(PM)IC、WM8320をサンプル出荷した。1.0Aの2個のコンバータを合わせると1.6Aを出力するDC-DCコンバータができる。しかもフレキシブルに構成を変えられる。この狙いは何か?

ウォルフソンのグローバルアプリケーションエンジニアリング担当ディレクタ Nick Roche氏


このDC-DCコンバータは出力電圧0.5Vと極めて低い電圧をも提供できる。低電圧で大電流を供給するのは携帯機器のアプリケーションプロセッサなどを動作させるためだ。特にARM社が提供する32ビットマルチコアのCortex-A9の駆動にぴったりというわけだ。アップルのiPhone 3GSやパームのPreなどのアプリケーションプロセッサにはARMのシングルで高性能なコアCortex-A8が搭載されている。このCPUコアをさらに高性能にするCortex-A9は次世代のネットブックやスマートブックに搭載されることは間違いないとみられている。スマートフォンよりもパワフルな通信パソコンにはスマートフォンよりもパワフルにしたい。だからこそ、この用途にはCortex-A9マルチコアが本命と見られている。ウォルフソンはARMとパートナーシップを組んでおり、1.6AのDC-DCコンバータはCortex-A9を意識したものだと、ウォルフソンのグローバルアプリケーションエンジニアリング担当ディレクタであるNick Roche氏は述べる。

ウォルフソンがこの新製品を出してきたのは、これまで出してきたPMICでは不満足な分野が出てきたためだ。それがスマートブックである。これまでのPMICのWM8310はPMP(パーソナルメディアプレイヤー)向け、WM8311はPND(パーソナルナビゲーションデバイス)やデジタルフォトフレーム向け、WM8312は携帯電話機向けで設計されており、バッテリチャージャーが内蔵されていた。スマートブックやMID(モバイルインターネットデバイス)などのコンピュータはバッテリチャージャーをチップ外部に別に持っているため内蔵していると無駄になる。そこで、今回のWM8320にはバッテリチャージャーを外してチップ面積を減らす一方で、1.6Aまでの電流にも対応できるような設計にした。

さらにスタートアップとストップのシーケンスをコントロールできるようにOTP(ワンタイムPROM)を内蔵した。このためユーザーの仕様に応じて、このシーケンスをプログラムできる柔軟性を持つ。設計段階ではEEPROMを外付けしておき、仕様が決まったらOTPに焼き込む方式が望ましい。

なぜこれほど多くの電源回路が必要か。携帯電話やスマートブックには、プロセッサに加え、DSPやDDR2メモリーコントローラ、各種の周辺回路(LCDドライバやCMOSセンサー、USB、HDMIなどのインターフェース)に使う電源電圧がそれぞれ違うからだ。一般の携帯電話には10個以上の電源回路が使われている。しかも電源バッテリは3.6Vのリチウムイオンのみ。3.6Vからさまざまな電圧を作り出すのがPMICである。

実は、これまでウォルフソンは、得意なオーディオプロセッサICには数種類ものパワーマネジメント回路を集積していた。しかしオーディオプロセッサの仕様は常に変わっていく。このため「2年前に、PMICをオーディオICから分離するという戦略に変えた」(Nick Roche氏)。今生産しているオーディオコーデックにはLDOは載せているものの、DC-DCコンバータは載せていないという。2年前にリリースしたWM835xシリーズからこの分離戦略をとるようになったとしている。


WM8320

WM8320


今回の新製品は、アプリケーションプロセッサ内の回路として、プロセッサコア用、DSP用、DDR2 DRAM用、I/Oインターフェース用などをDC-DCコンバータで、その他の回路にはLDOで電源電圧を供給する。フラッシュメモリー用には専用のLDOを使うように推奨する。このICチップは7mm角のBGAパッケージに入っているが、アプリケーションプロセッサを動かす電源回路に必要な他の部品を含め、電源ボード面積はわずか10mm角程度に収まるという(下図参照)。


WM8320


このようなDC-DCコンバータを同社はBuckWise技術と呼んでおり、0.5Vという低い電圧を供給できるうえに、過渡応答速度が短いのにもかかわらず電流電圧のドロップが少ないためノイズが少ないという特長を持つ。低電圧・高速過渡応答をどのようにして実現したか。「DC-DCコンバータの基本はハイサイドとローサイドのFETスイッチを通して電流を検出しフィードバックループによって制御する。従来はハイサイドFETで電流を検出しているが、このチップでは出力電圧が低いためハイサイドFETをオフにしほぼ常にローサイドFETがオンしている。このためローサイドFETのソース側から電流を検出しているため、高い過渡電圧は発生しない。ただし、この方式の欠点は最大の電圧が1.8Vまでしかとれないことである」とRoche氏はその秘密を述べた。

実際に使う立場から、プログラムによって、面積優先、高効率優先、バッテリライフ優先によって選択する。電源設計を選ぶだけで済むため、タイムツーマーケットを短縮できる。ただ、このPMICは、アプリケーションプロセッサへの応用を念頭に入れているため、電源のリファレンスデザインはプロセッサベンダーが提供するとしている。

(2009/10/01)
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