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スイスのベンチャーACP、SAW部品不要な携帯電話RF回路をCMOSで開発

スイスの大学発ベンチャー、Advanced Circuit Pursuit (ACP) 社が、SAWが要らない3G携帯電話のRFトランシーバ回路をCMOS ICで開発、インドや中国など巨大なエマージング市場に向けたハイテク製品と位置付けている。このチップはマルチバンドをカバーでき、しかも面積を食うSAWを搭載しなくてもすむというメリットが大きい。

スイスAdvanced Circuit Pursuit AG社のCEO、Qiuting Huang氏

スイスAdvanced Circuit Pursuit AG社のCEO、Qiuting Huang氏


ACP社創立者でありCEOであると同時にスイス連邦工科大学教授でもあるQiuting Huang氏は、このCMOS RFトランシーバチップを使えば、SAWがいらないことによる低コスト化、省スペース化のメリットがあることを強調する。最近、STエリクソンが3G携帯のプリント基板面積の削減を狙い、インドや中国などエマージング市場向けの低コスト1チップソリューションとしてAero4228チップを発売したが、そのチップにACP社が3G技術をライセンス供与した。

携帯電話回路では、周波数分割二重化(FDD)技術を使う。1本のアンテナで受信も送信も行うためだ。しかし、たとえ周波数が少しずれているとしても、パワーの大きな送信出力によって受信側に回り込んだり、スプリアス成分が受信されたりするため、受信感度が落ちてしまう。もちろん、デュープレクサによって送信と受信を分けるわけではあるが、前述した成分などによる受信感度低下を防ぐため、外付けのLNA(ローノイズアンプ)と2個の表面弾性波フィルタ(SAW)を入れてきた(下図左)。


携帯電話回路の比較
従来の携帯電話で使われるRF回路構成今回のチップを使う簡素な構成

海外仕様の携帯電話でよくあるようなマルチバンドをカバーする方式の携帯電話だと、LNAが3個、SAWは6個も搭載しなければならない。これだけでもプリント基板面積が増え、BOM(部品価格)も2〜3ドル増える、とHuang氏は指摘する。これまでのところ、SAWフィルタのない携帯電話は見たことがない、と同氏は言う。

開発したチップはWCDMAとHSPAをカバーするデュアルバンドのACP201と、中国の独自仕様のTD-SCDMAとHSPAをカバーするデュアルバンドのACP205である。ACP201やACP205のチップを使うと、右図のように回路が簡単になり、プリント基板の面積が減る。SAWとLNAが不要になるばかりではなく、周波数シンセサイザ用の大きなループフィルタや、送信機の出力段に設ける高価なバランも必要がないとしている。加えて、RF回路向けのDC-DCコンバータも集積している。

ただし、なぜそのようなフィルタを取り除けるのかについて、同氏は明らかにしない。STエリクソンに技術をライセンス供与したように、ベンチャーである同社はライセンスを受ける企業にしか技術は公開しないとしている。

今後の製品はすぐに3.9GのLTEへ向かう訳ではなく、3.5GのHSPA+やMIMOを含めたデュアルモード、トライモードのチップ開発へと進むという。

(2009/07/31)
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