記録容量を倍増した新HDD技術をSeagateが開発
HDD(ハードディスク装置)の記録密度向上は、一段違うレベルに達した。Seagate Technologyが開発したHAMR(熱補助方磁気記録:ハマーと発音)は、実際の製品に適用されたもので、これまでは提案止まりだった。今回の新技術は、ディスク側の超格子構造と、読み取り/書き込み側の量子アンテナ、という謎めいた言葉がキーワードだ。
図1 新技術HAMRの読み書き構造の模式図 出典:Seagate Technology
HDDの記録密度の向上は、薄膜磁気記録からMR(Magneto Resistance)ヘッド、GMR(Giant Magneto Resistance)ヘッド、さらにTMR(Tunneling Magneto Resistance)、PMR(垂直磁気記録)へと進化してきた。もはやこれまで、と思われがちだったが、Seagateが新しいHAMR(熱補助方磁気記録)技術を実用化、ディスク側の改善と共にさらに高密度化のロードマップを描いた。HDDの記録密度はさらに4年以内に倍増する、とSeagateはこの新技術の可能性を期待する。
HDDのようなストレージデバイスの記録密度をさらに向上させるのは、AI時代になりより多くの学習データを保存したいからだ。そのためにはデータセンターや大企業のストレージインフラを拡張するとともに、HDD側ではディスク1枚あたりのTB(テラバイト)容量を上げていく。従来のPMR技術を使ったドライブは16TBがほぼ最大だったが、今回の新技術を使った「Exos 30TB+」製品は、ほぼ倍に近い30TBもある。データセンターのストレージインフラ容量をこれまでと同じ床面積で記録容量を2倍に増強できることになる。
加えて、消費電力も従来のPMR技術よりも低く、TBあたりの消費電力は従来最高の16TBで9枚ディスクの既存製品だと0.5W/TBだが、30TBで10枚ディスクの新製品では、0.35W/TBとなっている。
今回のHAMRでは、重要なカギとなる技術がいくつかあるが(図1)、そのうちの二つが大きいという。一つはディスク側の磁気ドメインのグレーンサイズを小さくするため、超格子構造を用いたことだ。もともと超格子とはノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈博士が作製した技術で、半導体結晶を人工的に作るというもの。例えば半導体結晶GaAsとInGaAsなどを交互に配置することにより、新しい半導体結晶を作ってきた。この技術を磁気ディスクの表面に応用した。その詳細については明らかにしていないものの、Fe(鉄)合金とPt(プラチナ)合金を用いたという。ただし、どの組成の層を交互に重ねたのかついては述べていない。ただ、超格子構造を導入したことで、意図する位置に原子が正確に入るため、磁気ドメインのグレーンサイズを微細化し高密度のビットを実現できたと語っている。
その微細化したグレーンサイズの磁化状態から1と0を識別する。1ビットの読み出し・書き込みには、表面のドメインを磁化するか、磁化を解除するかによって判別する。今回の技術では、ビーム径が微細なナノフォトニックレーザーを用い、直径10〜12nmと最先端半導体チップとほぼ同じサイズ(直径)の微細な光で加熱し、2ns以内に加熱・冷却が進むという。溶融された部分を短時間に磁化することで書き込む。消去はその逆の過程だ。ナノフォトニックレーザーに関しては明らかにしていない。
溶けたかどうかを検出するのが量子アンテナ技術。レーザー加熱によって瞬時に表面が溶融しプラズマ状態となり、プラズモンが発生する。このため、そのプラズモンの周波数と、レーザーの周波数の共鳴を利用することによって、加熱プラズマ状態を検出するという。そして即座に磁化するのである。
図2 次機種もHAMR技術を使ってさらに大容量化を目指す 出典:Seagate Technology
Seagateは、今後ディスクあたりの容量を今回の3TBから、4TB、さらに5TBへと増加させるロードマップを描いている(図2)。その根拠として、Seagate Research VPの Ed Gage氏は、研究開発レベルではすでに8〜10TB/ディスクを目標として開発している、と述べている。