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MEMSセンサとAIが手触り感をデジタル化、香川大高尾研の触覚が人を超えた

CEATEC 2023のCEATEC Awardのデバイス部門において、香川大学とJST-CRESTグループがグランプリを受賞した(参考資料1)。薄いティッシュペッパーの手触りとぬくもりを感じるMEMS触覚センサを開発し、人間よりも正確に手触り感触をつかめるようにデジタル化したことが受賞理由である。どの程度、正確なのか。

図1 香川大学微細構造デバイス統合研究センター長兼創造工学部教授の高尾英邦氏(左)とマスターコース2年生の久安悟史氏(右)

図1 香川大学微細構造デバイス統合研究センター長兼創造工学部教授の高尾英邦氏(左)とマスターコース2年生の久安悟史氏(右)


川大学微細構造デバイス統合研究センター長であり創造工学部教授である、高尾英邦氏(図1)のグループが開発した研究成果だが、7種類のティッシュの中からどのメーカーの製品かを当てるという実験を人間とセンサで比べたところ、5人の人間では正確率が平均30%だったのに対して、MEMS触覚センサを使って機械学習させたシステムは何と95%という高い正解率を示した。

この技術では、MEMSを使った指先のセンサを複数本備えた構造を持ち、平面上を操作しながら平面上の凹凸波形を得ていくセンサと、一定温度を作り出すヒーターを備えている。ザラザラやすべすべの手触り感はMEMSセンサで凹凸を検出した波形を出力し、各種試料の表面波形を取得する。手触り感は、微細な表面の凹凸と、表面をなぞるときの摩擦力の両方をMEMSセンサで形成する。

表面の凹凸は表面に垂直方向の力の強さを検出し、摩擦力は走査する方向に沿う力を検出する。このため、表面凹凸センサ部分は上下運動を行い、摩擦力センサは左右運動を行う。2種類のMEMSセンサは、このため90度向きが違う。さらに固い試料と柔らかい試料とでは凹凸を測定ではセンサ部分が飽和したりしなかったりすることを検出するため、人間の指紋のように柔らかい試料と高い試料を平面上で区別できるようにするため、指紋センサも集積した。

さらにぬくもりを感じるセンサとしては、センサモジュールに内蔵したヒーターからの一定温度が試料表面に伝わり、その熱抵抗から温度勾配を求め、距離と熱伝導率から熱流束を求める。やはり試料表面を走査しながら摩擦や凹凸、熱流束などの波形を収集する。集まったデータと試料との関係を機械学習で覚え込ませ、学習データとしておけば、別の試料を走査することで、試料の持つ手触りを当てることができる。

これまで人間の肌(皮膚)の滑らかさや肌触りをデジタルで知ることができるため、企業との共同研究も行ってきた。高尾教授の研究は、JST(科学技術振興機構)のCRESTと呼ばれるネットワーク型研究プロジェクトから資金を得ながら、パナソニックやユニチャームとも共同研究を行ってきた。毛髪のキューティクルも検出できることからパナソニックが製造しているヘアドライヤー製品や、スキンケア分野での応用、医師の手術の訓練などにも生かせる、と高尾教授は期待する。

スキンケアだと、皮膚の質感を定量的に知ることができ、新しい化粧品の開発や毛髪ビジネスなどにも応用できる。定量的な数値で肌触りを表現できるため、肌がすべすべやプルプルになる化粧品や薬の開発に威力を発揮しそうだ。医療では、人間の臓器の中に出来る癌の部分を触覚センサで見つけることができる。従来だと、癌治療専門のベテラン医師しか見つけられないような、ごく初期の癌を経験の浅い医師でも高い確率で見つけることができるようになる。すでに医学界とも共同研究を始めているという。

参考資料
1. 「CEATEC AWARD 2023 総務大臣賞・経済産業大臣賞・デジタル大臣賞・部門賞 決定」、CEATEC (2023/10/16)

(2023/10/18)
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