超先端技術開発企業Keysightが考える6Gのあるべき姿
高周波測定器で定評のあるKeysight Technologiesが、セルラー通信規格6Gのイメージを明らかにした。Hewlett-Packardをルーツに持つ同社は、マイクロ波やミリ波の超高周波デバイスの測定器メーカーとして長年の実績があり、超最先端デバイスを開発してきた。測定すべきデバイスよりも高性能なデバイスを使わなければ測定できないからだ。そのKeysightが6Gに対してどのようなイメージを持つのか、その戦略を聞いた。
図1 Keysight Technologies 6G Program ManagerであるRoger Nichols氏
携帯通信電話は、アナログの1G(第1世代)から始まって5G(第5世代)までやってきた。1Gから4Gまでは携帯電話の規格にすぎなかったが、5Gでは携帯電話機だけではなくインターネットにつながるものIoTやクルマも5Gでつなげる規格になった。その適用範囲を「通信だけではなく、広告やエンターテイメント、マイニング、交通運輸などにも広げてきた」とKeysightの6G Program ManagerであるRoger Nichols氏(図1)は語る。6Gでは何をどう広げようとしているのか。
その前にもちろん、従来通りのデータレート(Gbps)やレイテンシを5Gよりも改善することは言うまでもないが、それ以上の応用拡張を狙ったものが6Gとなる。しかも、世代が変わるからといって前世代の技術が消えてなくなるわけではない。2G/3Gからの技術の上に4Gや5Gが乗り、さらにその上に6Gが乗るという概念になる(図2)。
図2 6Gは2〜5Gまでの既存の通信ネットワークに追加される形になる 出典:Keysight Technologies
6Gでは、従来通りの人間同士のコミュニケーション手段に加え、物理的な世界とデジタル的な世界も加わるという。それも、さらなる高信頼性、プログラマビリティ(フレキシブルなソフトウエアでの更新や改善)、サステナブル(エネルギーの削減)、安定性なども加わる。そして、6Gには4つのテクノロジーが係わってくるという。新しい周波数スペクトラム技術、AI(機械学習)を活用したネットワーク、デジタルツイン(メタバース)、そして新しいネットワークアーキテクチャである。
図3 6Gに必要な4つのテクノロジー 出典:Keysight Technologies
まずは周波数帯を見てみると、5Gのようにサブロク(6GHz以下)のローバンド/ミッドバンドとミリ波のハイバンドに分かれそうだ。6Gでのハイバンドは100~300GHzで、サブテラヘルツといわれる領域になるようだ(図4)。まず、第1世代の6G通信の周波数帯域で11GHzが決まった。これがローバンドあるいはミッドバンドといわれる周波数帯になる。そして5Gの時と同様、当初出てくる6Gデバイスの性能は、5Gの延長程度にとどまるものの、目標値に向けて進化していく。
図4 2Gから6Gまで共存する周波数スペクトラム 出典:Keysight Technologies
使用するデバイスや用途によって、様々な周波数帯域を使うため、それぞれをうまく共有するためにスマートスペクトラムシェアリング、そして次世代のMIMO(Multiple Input Multiple Output)、スペクトラム効率を高めるFR2などの技術が既存のスペクトラムを使う上で必要となる。
AIを最初に設計段階から使うための、メタバース(デジタルツイン)をフル活用する。いきなり従来の設計図を起こしてモノを作るのではなく、例えば全体の都市作りを考えながら、通信回線の全体設計から詳細設計に至るまで、メタバースを駆使しながら仮想空間で極めて現実的な建物や道路を設計する。その上で、AIで最適化する応用やエンド2エンドの性能の最適化などを検討していく(図5)。
図5 デジタルツインを活用して製造リスクを減らす 出典:Keysight Technologies
基地局内のネットワークはできるだけ分散化する。O-RANインターフェイスを使いRFとベースバンド、中央ユニット、コアネットワークなどをオープン仕様で接続し、中央ユニットからコアネットワークまで仮想化するようなイメージを描く。分散化することで将来登場するかもしれない、どのような新技術や仕様の変化にもソフトウエアで対応できるようにしようというフレキシブルな発想である。ここでもRFからコアネットワークに至るまでの各ユニットにAIを駆使して最適化を図る。
では、6Gではどのような応用を想定しているのか。5Gまではいわば地上でのセルラーネットワークの適用範囲を広げてきた。6Gではこれを3次元的に宇宙空間や、海中、地下などのネットワークにも対応していく(図6)。
図6 新しいネットワークアーキテクチャは3次元的に通信を広げる 出典:Keysight Technologies
これまでカバーしきれなかった過疎地帯や山岳地帯などには、衛星通信やHAPS(高度プラットフォームステーション)と呼ばれる飛行体やUAV(ドローンなどの無人飛行体)などの宇宙空間側からのアプローチと、海中での通信や地中での通信などへと広げていく。海中だと超音波や青色レーザーなどが有力手段で、地中にはリレー(中継器)を活用した無線通信を使うとしている。