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tinyMLがAIoTを推進、ルネサスはReality AI社買収でtinyML技術を入手

エッジAIやエッジコンピュータの意味が通信基地局や工場や企業のゲートウェイを指す言葉に定義されてきた中、エンドポイント向けの端末に向けたtinyML技術が活発になってきた。端末に搭載する超小型の機械学習チップの普及を目指すtinyMLファウンデーションがAutoML技術を推進し、ルネサスはtinyMLに強い企業Reality AIを買収する。

What is tinyML? / MEF 2022

図1 tinyMLは賢く軽いアルゴリズムでAI分析する 出典:MEF 2022


tinyMLは、例えば環境を連続的にモニターしてデータを収集するようなIoT端末デバイスに組み込む小型・超低消費電力の機械学習(ML)のチップのこと。バッテリ駆動端末に強力なデータ分析処理機能を組み込むことができるようになる。考えられている応用としては、犬の鳴き声とガラスの音を識別できるスマートホームのセキュリティシステムや、音声コマンドで応答するイヤホン、機械の故障を予知できるIoTセンサ、などがある。

tinyMLファウンデーションの取締役会議長でQualcomm Researchの取締役も兼務するEvgeni Gousev氏が、2022年4月に東京で開催されたMEMS Engineer Forum (MEF) 2022で述べたように、tinyMLは数mW以下の消費電力でAI分析を行うチップであり、これからの民生用、工業用などのIoTセンサとして大きな市場が期待されている(図1)。エンドポイントの端末で解析されたデータは、エッジAIに送られ、クラウドを通してデータ保存、管理、更なる分析などを行う(図2)。


Why tinyML opportunity is so enormous? / MEF 2022

図2 tinyMLはIoT端末で使うため、出荷数量は膨大に 出典:MEF 2022


機械学習の推論をベースにした分析では、学習よりも少ないデータ処理で済むが、tinyMLでは推論のアルゴリズムは数百kB程度の少ないコードで実現するような賢いソフトウエアが要求される。Gousev氏が指摘したようにデータの95%はエンドポイントに集まるため、ここで物理世界のデータを軽いアルゴリズムで分析するリアルタイム性が求められる。まさにIoT端末に適したAIといえる。

tinyMLの数量の市場規模は、エッジAIやクラウドAIなどと比べ、巨大になっていき、2024年に10億個、2026年には54億個のtinyMLを搭載した端末が市場に出荷されると見積もられている(図3)。高い2桁成長で、デバイスだけの出荷の数字だけだが、ソフトウエアとアルゴリズムの市場も加えると5~10倍の規模になりそうだとGousev氏は見ている。


tinyML enabled DEVICES - 2030 Forecast / MEF 2022

図3 tinyMLの市場規模 出典:MEF 2022


tinyMLファウンデーションは、tinyML AutoMLと呼ぶドキュメントを提供し始め、技術プログラム委員会を組織化した(参考資料1)。AutoMLは小型のマシンを自動化するための技術であり、AIの知識がなくても機械の自動化をできるようにする。それに関するフォーラムも各地やオンラインで開く。

ルネサスエレクトロニクスは、エンドポイントすなわちIoT端末向けのAIソリューション、tinyMLを提供するReality AI社を買収することで両社が合意した(参考資料2)。自動車や産業用市場に特化するルネサスがIIoT (産業用IoT)を賢くするtinyML技術を手に入れることで、Industry 4.0を推進する企業を後押しできる。Reality AI社の高度な信号処理数学を駆使した、高速で効率的な推論を可能とする機械学習モデルは、小さなMCUに組み込むのに最適だとルネサスは考えた。Reality AI社は、Reality AI Toolsと呼ぶソフトウエア開発環境を持っており、非視覚センサから得られたデータを収集、解析し、軽量な学習モデルを生成できる。

この小さなモデルをルネサスのマイコンに組み込むことで、分析できるIoT端末向けのマイコンの製品ポートフォリオを広げることができる。ルネサスはReality AI社を手に入れることで、組み込みAI技術、主要な知的財産、ソフトウエア、ツールの拡充に加え、Reality AI社のAI専門人材を獲得し、米メリーランド州にAIoTの研究開発拠点を持つことになる。

参考資料
1. "State of the tinyAutoML Market 2022", tinyML Foundation (2022/06/10)
2. 「Reality AI社を買収し、エンドポイントでの高度な信号処理とインテリジェント化を実現」、ルネサスエレクトロニクス (2022/06/09)

(2022/06/30)

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