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Qualcomm、通信速度に加え回収期間の短縮も5Gミリ波の優位性

Qualcommの日本法人であるクアルコムジャパンは、5Gミリ波に向けたモデムチップSnapdragon X70をはじめとして、最先端のミリ波ビジネスに力を入れている。5Gの最終目標であるダウンリンク20Gbps、アップリンク10Gbpsを実現するためにはミリ波は欠かせない。Qualcommはミリ波だけのスタンドアローン(SA)モードの5Gモデムの優位性を実験で示した。

図1 クアルコムジャパンが開いた5Gミリ波技術の会見 登壇しているのはクアルコムジャパンの代表社長である須永順子氏

図1 クアルコムジャパンが開いた5Gミリ波技術の会見 登壇しているのはクアルコムジャパンの代表社長である須永順子氏

5Gミリ波に関しては否定的な見方があるとして、クアルコムはミリ波への投資効率は、従来のサブロク5G(6GHz以下のキャリア周波数)の7〜8年の投資回収年数に対して、4.8年で回収できるとした。これは投資の12%を交通密度の高いエリアに集中させると加入者の24%が利用できるようになり、回収期間を短縮できるというもの。

5Gは、今の所データレートの低い「サブロク」(周波数が6GHz以下)を利用して世界各地で導入されている。しかし、サブロクではいつまでたってもデータレートを高速化できない。このためミリ波(波長が10mm以下の周波数)が欠かせない。Qualcommは、ミリ波技術で大幅にライバルよりも差をつけているが、ミリ波に対して否定的な見方がある、として、このほどメディア向けの会見(図1)を開いた。

一般に、電波の周波数が上がれば上がるほど、指向性が高まると共に到達距離は短くなるという電磁波の性質がある。このためミリ波周波数である30GHzよりも上の波長がミリメートルになると、届きにくい、直線性が増す、ことになる。しかし、ビームフォーミング技術によって、つながっている複数の端末ごとにアクセス可能にビームを順番に分配したり、端末ユーザーを追いかけるビームトラッキング技術を使ったりするなど、これらの問題を解決し、差別化すべき技術は多い。つまり技術のバリアは高くても開発すべき技術が多く、他社に差をつけることができる。

5Gミリ波デバイスは、スマートフォンだけではない。パソコン、アクセスポイント、IoTモジュール、VPNルータなどエッジデバイスとして携帯電話以外の需要も見込まれる。すでに150種類以上のデバイスに5Gミリ波が導入されているという。ラストワンマイルを実現するための固定ワイヤレス通信にも威力を発揮する。特に米国のVerizonが5Gサービスを始めた初期のころ、28GHzのミリ波通信は光ファイバの幹線から個別の家庭に高速通信を提供していたが、この固定ワイヤレス(クアルコムはワイヤレスファイバと呼んでいる)需要は、Ericson Mobility Report 2021(参考資料1)によると着実に増えている。

Qualcommによると、5G ミリ波技術は着実に進歩しており、端末の普及だけではなく、NSA(Non-Stand Alone)からSAへ進み、さらに周波数も最大71GHzまでのスペクトルがリリース17で提案されている。


図2 5Gミリ波は空いているときは2Gbps弱、混雑時でも231Gbpsの実力


また、街中で普通に使っている状態でのダウンリンクの速度は、比較的空いている時は2Gbps弱、混雑状態でも231Mbps、と4Gでの空いた状態と同じレベルを示した(図2)。

ミリ波で圧倒的な力を見せつけるQualcommは、モデムは言うまでもなく、RFトランシーバやRFフロントエンド、アンテナ回路など難しいミリ波ICチップを次々と開発している。MediaTekがサブロクのモデムチップで追いかけるものの、RF関係ではQualcommは圧倒的な技術力を誇る。需要によってAIP(Antenna in Package)パッケージでIC製品上にアンテナを設けることができる点もミリ波の特長だ。

今回、5Gミリ波向けのモデムチップSnapdragon X70も紹介した。これはMobile World Congress 2022で発表したものだが、サンプル出荷を始めており、年末にはこれを搭載したデバイスが年末には登場するという。10Gbpsのスペックを含んでおり、計測器メーカーKeysightの実験では8Gbpsを示したとしている。

ミリ波はローカル5Gでも使われている。これまではLTEと28GHzの両方を使う実験例が国内でもあったが、これからは5Gミリ波だけでローカル5G通信システムを構成できるようになる。

ミリ波技術は実は5Gや6Gだけではない。クルマのレーダーも77GHzや79GHzのミリ波レーダーを使う。最近では周波数帯域を7GHzまで広げる60GHz帯技術を使って点群イメージング技術も登場している。また、5Gミリ波技術を磨いておけば、6G時代のTHz(テラヘルツ)にも対応できる。6G技術は5Gミリ波技術の延長にあるからだ。

参考資料
1. Ericsson Mobility Report, Ericson (2021/11)

(2022/06/17)

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