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開発期間を短縮するモデル作成AI、英国Secondmindがマツダと提携

AI(機械学習)の実務的なビジネス応用に注力してきた英国Secondmind社は、アクティブ学習と呼ぶAIアルゴリズムを利用し、高精度のモデル開発が要らない最適化ツールを開発、このほどマツダとライセンス契約を複数年に渡り締結した(参考資料1)。

従来クルマの開発では、例えばクルマの空気抵抗や、燃焼効率などを求めるためさまざまなデータを取り、それに合うような動作モデルを設計者が作成し、更なるデータと比較してはモデルを改良し、新車設計に活かしてきた。クルマやエンジンを3D-CADなどで設計し、そこに空気抵抗やエンジン内での燃焼のモデルを想定、数値計算のシミュレーションを行う。

しかし、モデルを立てることが困難なうえに計算量を解決するためのモデルの作成には膨大な時間がかかっている。せめてC/C++などの言語ではなく、さまざまなモデルのライブラリやビジュアルな設計環境として、MATLABやシミュレーションモデル作成のSimuLinkといった有名なツールを使って設計・検証するようにはなってきた。それでも精度の高いモデルを作成するためのデータ測定や分析の工数が増大し、その難しさは、半導体のプロセス設計と同様、簡単ではない。

さらに、最近はカーボンニュートラルやゼロエミッションへの要求、ACES(Autonomy, Connectivity, Electricity, Sharing)のように自動運転やコネクティビティ、シェアリングなどの要求も採り入れなくてはならず、モデルが膨大になってきた。このモデルを作成しようとすると、さまざまな大量のデータが必要となる。加えてデータ密度が疎であったり、ノイズが乗っかってきたりして、評価が難しくなっていた。

Secondmindのアクティブ学習アルゴズムでは、簡単な粗いモデルを作ってデータを読み込み、それを目的とする効率向上やトルクの最大化などの目標値に対して、CO2排出量をはじめとしたさまざまな制限パラメータの制約を守りながら、キャリブレーションしてさらにより良いモデルを作成していくというもの。「いわばデータからモデルを作成していくようなものだ」と同社CEOのGary Brotman氏(図1)は語る。次に入力されるデータに対して、新たに作成したモデルを使って、同様にして目標値にさらに近づくようにモデルをキャリブレーションして、次の新しいモデルを作成していく。このようにして最適値を求めることができる。


Secondmind経営陣 左端がCEOのGary Brotman氏 / Secondmind

図1 Secondmind社の経営陣たち 左がCEOのGary Brotman氏 出典:Secondmind


実際に内燃エンジンの最適な条件をキャリブレーションで変えていく作業に使われたとしている。この場合、最大50種類のパラメータと制約条件を課すわけだが、データを取り込むたびに学習し、キャリブレーションして修正するために必要な実験計画を動的に更新するという。既存の内燃エンジン用のモデルだけではなく、ハイブリッド車や電気自動車など幅広いパワートレインにも対応できるように設計されている。

その結果、従来の実験計画法で最適値を求める方法と比べ、ノッキングが発生せず最小の燃料で済む最適値を求めるのに数分の一の時間で済んでいる(図2)。


従来の方法よりも圧倒的に少ない時間で最適化できる / Secondmind

図2 従来の方法よりも圧倒的に少ない時間で最適化できる 出典:Secondmind


このAIアルゴリズムはクラウド利用で使うため、同社のビジネスモデルはSaaS(サーズ:Software as a Service)だ、と同社日本法人代表でカスタマサクセス担当VPの井上友弘氏(図1)は言う。すなわちアクティブ学習アルゴリズムを格納しているソフトウエアはクラウドベースで使い、ソフトウエアを売り切りのライセンスベースではない。

2016年英国ケンブリッジに設立された同社のBrotman CEOは、元QualcommでAI戦略・商品企画部門の責任者を務めていた。技術部門のトップはケンブリッジ大学で機械学習専門のCarl Rasmussen教授がCSO(Chief Science Officer)を兼務している(図1)。ビジネスとテクノロジーの両輪をそれぞれの専門家が受け持つ体制は、Googleをはじめとする典型的なスタートアップの成功パターンのようだ。

今回、マツダにライセンス提供することにより、マツダは最適なエンジン開発にかかる期間を半減できると期待している。マツダとは複数年に渡るライセンスを契約し、すでに開始しているハイブリッドカーやEVのパワートレイン制御システム、ACESなどの先進制御領域へ拡大するための共同研究を続けているとしている。

参考資料
1. 「Secondmind、マツダにアクティブラーニング・プラットフォームをライセンス供与」、Secondmind (2022/02/03)

(2022/02/17)

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