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実走行を模擬する512レーダー搭載エミュレータをKeysightが提案

米計測器メーカーのKeysight Technologyが自動運転のテストに必要なレーダーシーンエミュレータを開発した。これは車載レーダーが周囲の物体を検出するのに使うハードウエアのシミュレータ、すなわちエミュレータであり、路上での様々な物体をエミュレートする。実車でさまざまな道路を何度も走行テストしなくても済むようになる。

AD1012A Radar Scene Emulator / Keysight Technology

図1 Keysightが開発した512個のレーダーアレイを搭載した自動運転向けシーンエミュレータ 出典:Keysight Technology


クルマメーカーは完全自動運転のレベル5を目指して、カメラだけではなくレーダーも使い、クルマの周囲の物体を検出するように開発を進めている。自動運転の最大の狙いは事故の低減であるため、前方のクルマだけではなく人や標識などさまざまな物体(オブジェクト)を検出し、次の行動(曲がる、止まるなど)を学習させる必要がある。このために路上に出て実際に起こりうるさまざまなシーンでカメラやレーダーのテストを行ってきた。

カメラと違って、レーダーは濃霧や吹雪のような視界が悪い日に威力を発揮する。路上でクルマや人、自転車、標識、電柱、塀や壁などの物体を検出し、それを識別しそれらが何であるかを認識すると共に、認識できたら次の行動に移ることも学習しておかなければならない。このため実車でさまざまなシーンを検出しておく必要があり、時間とコストがかかってしまう。

そこで、レーダーで検出する物体があるシーンをエミュレートするための装置を、今回Keysightは開発した。これがレーダーシーンエミュレータである。

これまでのエミュレータでは、模擬する物体の数が数個しかなく(図2の左)、自動車から見えるシーン全体にある物体を全て網羅できない。数台のクルマを検出することしかできなかった。


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図2 クルマから見えるさまざまな物体を検出し衝突を避けなければならない 出典:Keysight Technology


今回のレーダーシーンエミュレータは、図2の右にあるように、走行中に見えるさまざまな物体を最大512個認識できる。このエミュレータは、図1にあるように水平方向に64個、垂直方向に8段で合計512個のレーダーエレメントを配置している。図1の前方にDUT(Device under Test)というべきクルマに搭載するレーダーユニットを置き、その特性を512個のユニットからの反射信号を測定することによって、物体として認識する。

512個のレーダーアレイを使うことでクルマの前方に現れる乗用車やトラック、電柱、標識などを表現し、DUTレーダーをテストすることができる。この装置は、広い視野(水平方向±70度、垂直方向±15度)、そして最短1.5mまで近づいても検出できる性能を持っている。

これらのレーダーアレイを使うことによって、実際の道路とその周辺のオブジェクトを検出し、それらを区別するための学習アルゴリズムを開発できるようになる。これまでの少ないオブジェクト数だと、例えば図2の左の図のように、バスに重なって見える人は検出できず、正確な画像を検出・認識することができなかった。自動運転に必要なエミュレーションとしては、道路や橋などクルマが走行する場所をエミュレートできなければ、実車で検証するしか方法がなかった。もちろん、ソフトウエアで映像をシミュレーションするツールはあるが、ソフトウエアはしょせんコンピュータで模擬しているだけなので、実車検証が欠かせない。しかしハードウエアエミュレーションは、実レーダーの反射波データを測定しているため、実車での検証は確認だけで済む。学習時間を大幅に短縮できる。

Keysightはこのエミュレータを最小構成価格として5000万円からを想定しており、2022年2月から発売する計画だ。フランスの自動車メーカーRenault(ルノー)は、この装置を使えば、設計時間の短縮に役立つことは間違いなく、現在がPoC(概念実証)プロセスの終盤にあるという。KeysightはRenault以外にも名前を出せないが数社の企業ともエミュレータを評価中だとしている。

(2022/01/12)
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