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Nvidiaの最新技術会議、ハードとソフトのセット応用拡張戦略が明確に

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GPUメーカーであるNvidiaが応用を拡大するためにソフトウエア開発にかなりの力を入れている。特にプラットフォーム、すなわち開発の基本となるソフトウエアOmniverseでの応用拡張だ。3D-CADにシミュレーションを加え可視化するという一連の流れを表現する。モノづくりに欠かせない汎用工業デザインの基本となる。先週開催されたGTC 2021でCEOのJensen Huang氏(図1)が基調講演でさまざまな応用を見せた。

図1 Nvidia CEOのJensen Huang氏

図1 Nvidia CEOのJensen Huang氏 前回は自宅の広いキッチンからプレゼンしたが、今回は仮想空間を重視する製品を打ち出すため仮想空間をバックにした(上)。さらに自分のアバター(下)でもプレゼンした 出典:Nvidia


Omniverseプラットフォームは、クルマのような製品や街にある建物といった物理的なモノを設計するために、デジタルツイン(現実の世界をシミュレーションで同じ状況を作り出し、現在の問題解決に挑む技術)を実現するツールである。例えば、今回のGTC(GPU Technology Conference)2021では、スウェーデンのEricssonと協力し、5Gの電波がどのような強さで出ているかをシミュレーションし、それを可視化している(図2)。Ericssonは、このシミュレーション結果から、簡易基地局をどこにどのように配置すると5Gサービスを最適にカバーし、加入者に最適なサービスを提供できるかを分析する。このため、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの通信業者に対して改善点を提案できる。


図2 Ericssonと協力して5G電波の伝達をシミュレーション 出典:Nvidia

図2 Ericssonと協力して5G電波の伝達をシミュレーション 出典:Nvidia


もちろん、Omniverseを使ってシミュレーションし可視化する場合には、GPU(グラフィックスプロセッサ)を使ったコンピュータが欠かせない。つまり、単なるチップ設計を超え、そのチップを使ってもらうためのソフトウエア基盤(プラットフォーム)を作り、さらにそれを全てのモノづくりデザイナーに使ってもらえるようにする。これがNvidiaの戦略なのである。そうするとソフトウエアだけではなく、高性能コンピュータというハードウエアも売れ、当然キーとなるGPUも売れる、という狙いだ。

ソフトウエアプラットフォームOmniverseでは、さまざまなソフトウエアモジュールを組み込むことができるように拡張性を持たせている。OmniverseにはAR(拡張現実)やVR(仮想現実)のような没入型のグラフィックスを使ってアバターを作り、そのアバターとの対話を通してシミュレーションなどの作業を行うことができる。例えば、Omniverse Avatarと呼ぶサブプラットフォーム上(図3)では、クルマを走行中に対話できるアバターが道路案内や混雑状況を知らせるコンシェルジェの役割を果たすDRIVE Conciergeと、自律走行を強化するDRIVE Chauffeur(おかかえ運転手の意味)を使う。実はここに、Nvidiaの自動運転向けのGPUであるDRIVE Orinチップと共に動作させる。すなわち、チップとソフトウエアがセットで使うようにしているのだ。


図3 クルマの自動運転とコンシェルジェを組み合わせられるOmniverse Avatar 出典:Nvidia

図3 クルマの自動運転とコンシェルジェを組み合わせられるOmniverse Avatar 出典:Nvidia


OmniverseはARやVR、マルチGPUレンダリングといった新機能を搭載しており、鮮明なグラフィックスを3D-CADデータと共に結合している。昨年の12月にβ版を公開して以来、Omniverseは7万人以上のクリエータや工業デザイナーなどにダウンロードされてきた。こういったユーザーにはBMWグループやEricsson、Sony Pictures Animationなどがいる。

今回、Omniverseに追加された機能には、上に述べたOmniverse Avatarに加え、Omniverse Replicatorもある。これは、ディープニューラルネットワークの学習ができる強力なエンジンで、物理的なものをシミュレーションした合成データを創り出す。Omniverseには、音声AIやコンピュータビジョン、自然言語理解、リコメンデーションエンジン、レイトレーシング技術、そしてシミュレーション技術が含まれており、NvidiaのGPUと組み合わせて使うようにできている。チップとソフトウエアとの一体化がNvidiaの戦略といえそうだ。


図4 電力効率が高く200TOPSの性能を持つJetson AGX Orinチップ 出典:Nvidia


GTC 2021ではこのほかにも、自動走行する際に周辺の景色を描き出すDRIVE Mappingや、電力効率が高く200 TOPS(Trillion Operations Per Second)の性能を持つ新GPUであるJetson AGX Orin(図4)ボード(2022年第1四半期にモジュールと開発キットを提供)、ガン患者の診断に使うAIの事例、スーパーコンピュータとネットワークコンピュータの両方を兼ね備えたQuantum 2システム、大規模なAIモデルを実現するための大型コンピュータNvidia Megatron なども発表している。極めて盛りだくさんのHuang氏の基調講演であった。

(2021/11/16)

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