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ソニー、マシンビジョンや車載カメラ用にAI解析の開発環境を提供

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ソニーが、イメージセンサデータをエッジ側で解析し、データを軽くしてクラウドに送信できるエッジAI開発環境「AITRIOS(アイトリオスと発音)」を提供する。ソニーセミコンダクタソリューションズは、半導体メーカーではあるが、開発環境も提供することで、データ爆発の解決に近づけることができる。開発環境を使ってデータを軽くするからだ。

センシングソリューション普及・拡大に向けて / ソニー

図1 センサからの出力をAIで解析、アプリ開発も行うソフトウエアプラットフォームAITRIOS 出典:ソニー


IoT、エッジコンピューティングなどでは、「クラウド上にあるデータの90%以上が捨てられている。データはほんのわずかしか使われていない」、と言われてきた。そこでデータをもっと有効活用することで、これまで見えなかった情報が見えてくる、あるいはもっと業務効率を上げるためにDXあるいはIoTシステムがある。しかし、モバイル通信で使われているデータの63%程度が実はビデオデータである(図2)。これが2025年には76%を占めるようになる。映像を有効活用しようと言われても、業務効率の改善にどうつなげればよいのか。ここに矛盾があった。元々使われないデータの大部分がビデオデータだった。つまり無駄なデータがクラウド上に上げられている訳だ。


2019年に63%だった動画データは2025年には76%を占めるようになる / Ericsson Mobility Report

図2 モバイル通信データの大部分がビデオデータ 出典:Ericsson Mobility Report


イメージセンサを提供してきたソニーは、無駄なビデオデータが通信トラフィックの大部分を占めていることに心を痛めていた。

そこで、イメージセンサのデータを画像処理し、AIによる物体認識・判別などを行えるAIエンジンも集積したロジックチップを開発、イメージセンサとスタックしたインテリジェントイメージセンサIMX500(図3)を2020年5月に発表した。これを使えば、ビジョンセンシングのデータを軽くできるため、クラウドに送ってもデータはさほど大きくなくなる。また、エッジのまま自動の外観検査装置や物体認識装置などに威力を発揮する。


世界初のAI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー IMX500 / ソニー

図3 AIチップとイメージセンサを重ねてパッケージしたIMX500 出典:ソニー


これまで、ビジョンセンシングはまだ普及していなかった。映像を貯め込むだけではデータ量が重すぎるからだ。重いデータを使って、センシングする応用は進まない。データが重すぎて処理時間がかかり、開発者は二の足を踏む。

そこでソニーは、IMX500で培った技術を活かし、エッジ解析するようなソフトウエアプラットフォーム「AITRIOS」を開発した(図4)。これを使うとユーザーはイメージセンサとAIチップなどと組み合わせ、さらにこのAIデータ解析・ソフトウエア開発環境を使えば少ないデータで、ビジョンセンシングが可能になる。また、データをAITRIOS上で加工するため個人を特定するデータを削除しプライバシーを保護したデータをクラウドへ送ることができる。


AITRIOS / ソニー

図4 イメージセンサのデータを解析、アプリも作り可視化やデータ加工に使う 出典:ソニー


AITRIOSでは、大きく3つの機能を提供する。一つは、IMX500上で動作するAIのモデル開発やAIによるセンシングアプリケーション開発に向けたSDK(ソフトウエア開発キット)やツールである。2番目はクラウド上でアプリケーションを開発するための環境である。エッジ側でのアプリケーションと連動し、クラウド側で動作を最適化するためのアプリケーションを開発するSDKやツール。3番目は、IMX500を搭載したAIカメラを開発するためのSDKやリファレンスデザインボード、である。

ソニーがAITROISに力を入れる理由は、ビジネス上からもある。これまでのソニーのCMOSイメージセンサはほとんどがスマートフォン向けだった。スマホ市場が3眼カメラまで搭載するようになった今、スマホでこれ以上の成長は望めなくなってきた。そこで、CMOSイメージセンサの市場を拡大するため、クルマ向けはもちろん、一般産業向けにもマシンビジョンのような用途でも使ってもらうためには、ソフトウエア開発も含めた支援が必要と考えた。産業向けでは用途ごとに最適化するための対応が欠かせないからだ。顧客ごとにゼロから対応することはビジネス上難しい。しかし顧客のアプリケーションソフト開発ならAITRIOSプラットフォームを使ってもらえれば多数の顧客にも対応できる。

これまでの所、小売りやスマートビル/スマートファクトリなどからの問い合わせが多いという。AITRIOSサービスの提供のメドが立ったため、今回のサービス商品化に踏み切った。ビジネスモデルとしてはサブスクリプションモデルを考えているという。

今後、AITRIOSプラットフォーム自身も、CMOSイメージセンサだけではなく、LiDARなどのToF(Time of Flight)センサや、動きを感知して動作し始めるEVS(Event-based Vision Sensor)センサなどにも応用していく。

参考資料
1. 「AIカメラを活用したセンシングソリューションの効率的な開発・導入を可能にするエッジAIセンシングプラットフォーム『AITRIOS(アイトリオス)』のサービスを開始」、ソニーセミコンダクタソリューションズ (2021/10/06)

(2021/10/29)

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