新しいメモリシステムがデータセンターを変革する〜GSA Memory+会議から
メモリがこれからのシステムの中心になる。こういった動きがGSA Memory+ Conferenceで登場した。これからのメモリを探る上でメモリセル単体から、データセンターのようなシステムレベルでのメモリの高速化、大容量化につながるCXL(Compute Express Link)インターコネクト、3D-NANDに刺激された3D-NORへの道など、新しいメモリの動きが明らかになりつつある。
図1 GSA Memory+ Conferenceの冒頭でGSAの役割について述べるCEOのJodi Shelton氏 出典:GSA Memory+ Conferenceからスクリーンショット
メモリが新しいフェーズに入ったと述べたのは、韓国SK HynixのCEO兼社長のSeok-Hee Lee氏。デジタルトランスフォーメーション(DX)時代のメモリメーカーはますます重要な役割を担うとして、これまでの高集積・高速・低消費電力といった方向から、今や社会問題の解決にメモリが重要になっていると語る。そこで3S(Scaling、Social、Smart)という言葉で現在これからの方向を表現した。Scalingは従来の延長の高集積や高速化の進化であり、Socialはそれをさらに進めた省エネや価値の向上といった尺度を表す。そしてSmartこそがDX向けの新しいメモリ技術になるとして、ロジックも含めてシステムを見直す時期に来たとする。
特に、これまでのCPU中心のアーキテクチャからメモリ中心のアーキテクチャへの流れが加速するという(図2)。さまざまなシステムがスマートになり、全てのデバイスがAIとも通信でつながっていくが、そういったシステムの63%がメモリになると述べた。メモリ中心のアーキテクチャでは、CPUとほぼ一体化するようなメモリ構造になるという。
図2 CPU中心からメモリ中心へ 出典:GSA Memory+ Conferenceからのスクリーンショット
ストレージに関しても、NANDフラッシュを使ったSSD(半導体ディスク)がHDD(ハードディスク装置)を置き換えが進んでいるが、低消費電力のPLC(5ビット/セル)/QLC(4ビット/セル)のSSDをHDDに置き換えると消費電力は93%下がるとLee氏は述べた。もし2030年までにHDDを全てSSDに置き換えると4100万トンのCO2削減になると見積もっている。
CXLがデータセンター構造を変革する
Micron Technologyの技術開発担当のシニアVPのNaga Chandrasekaran氏もやはり、メモリがカスタマエクスペリエンスを変えていくと述べ、従来のCPU中心のアーキテクチャのボトルネックを解消するのがDRAMとSCMの間に来るCXL(Compute Express Link)インターコネクトでつながるメモリだと語った(図3)。元々CXLインターコネクト規格はMicronが推進してきたオープンスタンダードであるが、CXLにはメモリメーカー全てが注目している。特に、明日のデータセンターの構成を変えていくと見込まれている。
CXLは、PCIeインターフェースをベースにした新しいインターコネクト技術で、メモリを大量に接続できる構成が特長で、インターコネクトのスイッチの役割を果たす。従来のバス構成だと、バス競合が起きやすいため却ってアクセス速度が遅れてしまう。それを避けるため、スイッチングで調整するという訳だ。CPUやGPUコアを大量に接続する場合もインターコネクトにスイッチング技術を適用して、特にスーパーコンピュータやHPC(High Performance Computing)などで大量のCPUやGPUを接続できるようにしている。SmartNICや富岳のTofuインターコネクトなどのスイッチファブリックのように、大量のメモリが使えるようにしようという規格である。
6月30日、Micron Technologyは、ユタ州リーハイにあるメモリ工場を15億ドルでTexas Instrumentsに売却すると発表した。そこでは3D-Xpointメモリを生産していた。つまり3D-Xpointメモリも生産を止めるということである。その真意は、どうやらCXLインターコネクトにありそうだ。3D-Xpointメモリの市場が当分見込めないが、CXLインターコネクト規格で大量のメモリを接続することでシステム性能の改善が見込める。
3D-NORフラッシュもCXLメモリの候補に
台湾のNORフラッシュを推進するMacronix InternationalのチーフサイエンティストのKC Wang氏は、CXLはフラッシュメモリに向くと述べた。メモリを大量に使うCXLではメモリ中心のコンピューティングの一つとして位置づけられ、NANDフラッシュよりも高速なNORフラッシュにも道が開かれている。それが3D-NORである。
従来のNORフラッシュメモリは微細化に限界があり、40nm以下が難しく高集積化もできなかった。ところが、3D-NAND技術をNORに適用すればGビットクラスも可能だとしている(図3)。
図3 3D-NORフラッシュが可能に 出典:GSA Memory+ Conferenceからのスクリーンショット
3D-NORであれば、少なくとも縦列接続のNANDよりは並列接続のNORの方が高速であり、SCM(Storage Class Memory)としての候補になりうる。もちろん、1ビット/セルのNANDフラッシュもSCMの候補である。
SamsungのCXLメモリモジュール
SamsungはすでにCXLメモリエキスパンダーと呼ぶ製品を2021年5月に発表している。GSA Memory+ Conferenceでもこの写真を見せた。この製品にはDDR5 DRAMメモリモジュールを搭載しており、これを大量に接続するとテラバイト容量まで拡張でき、しかもシステムのレイテンシを下げることができる。データセンター内で大量のメモリを使う、AIやHPCなどの応用に向く。
図4 SamsungのCXLメモリエキスパンダー
CXLで代表されるシステム技術は、メモリメーカーだけで達成できるものではない。システムメーカーと共にコラボレーションを図り、エコシステムを構築していくことが重要だと、全てのメーカーが述べている。