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Nokia、日本のモノづくりに5Gのターゲットを置く

Nokiaが東京広尾のフィンランド大使館でConnected Future 2020を開催、日本におけるローカル5Gへの期待とエコシステムの重要性を述べた。ローカル5Gは、IoTと組み合わせて工場や港湾、倉庫など広い場所で機械や機器をつなぎ、生産性を上げようという技術である。

図1 Nokia社President兼CEOのPekka Lundmark氏(右端)はホログラムでプレゼンを行った

図1 Nokia社President兼CEOのPekka Lundmark氏(右端)はホログラムでプレゼンを行った


Nokiaは今、携帯電話機事業をやめ通信インフラに集中している。次世代通信5Gでは、日本の進んだ工業分野でNokiaが提供できる技術であり、5Gを出来るだけ早くセキュアに、しかももっとフレキシブルに拡大したい、との思いがある。同社President兼CEOのPekka Lundmark氏は、ホログラム映像を使い、5Gを使って日本と一緒に優れた製品やサービス提供をやっていきたい、と述べた(図1)。

Nokiaの日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークス社社長のJohn Lancaster-Lennox氏は、日本で力を入れるのは3つ;5G全体のエコシステム、日本企業向けシステム、そして5Gを使ったITシステム、であると語った。5Gを通信オペレータに納入することは4Gまでと同じだが、5Gではローカル5Gあるいはプライベート5G と呼ばれ、企業の工場や倉庫、港湾などの比較的面積の広い場所で5Gを設置して利用する(図2)。日本は製造業が強く、ここにIoTデバイスを5Gでつなげ工場の生産性を上げ、ローカルやパブリックのクラウドを利用してデータ収集・管理・解析を行うことで工場の生産性をさらに上げていく。


産業用5Gキャンパスでの潜在的なユースケースと高精度位置情報

図2 ローカル5Gの概念図 工場内などに設置すると予知保全などからデジタルトランスフォーメーションなどさまざまなことができるようになる


そのための技術ソリューションも備えている。5Gという無線技術だけではない。基地局内と基地局間の接続には光ファイバを使っており、固定ネットワークやIP、ソフトウエアも得意だとしている。これらを活用することで、日本が提唱するソサエティ5.0を発展させることができると主張する。Nokiaはこれまで基地局への設備を各国ごとの仕様に合わせて納入してきた技術があるからだ。

こういった技術を集めることによって、一つの基地局を1メートル立法メートル程度の体積に収めた簡易型基地局をNokiaはデモで示した(図3)。ここではベースバンド演算システム部分を水冷方式でコンパクトにし、自社設計の半導体ICをふんだんに取り入れたとしている。水冷は循環式の密閉構造で、回路ボード全体に冷却水の管を敷き詰め、ボードを冷却する。


SA-in-a-Box コンパクト5G SAシステム

図3 一つの筐体に基地局全てを収めた


基地局は大きく分けて、アンテナに直結するRF部分(RF Unit)と、無線ベースバンド部分(DU: Distributed Unit)、コアのアプリケーションサーバー(CU: Centralized Unit)の三つの部分からなるが、この三つとも一つの筐体で構成したのが、図3である。筐体の上にRU部分があり、オレンジ色の同軸ケーブルが接続された筐体内の下の部分がDU、上の部分がCUとなる。SA-in-a-Boxと書かれたコンパクトな5G基地局のSA(Stand alone)システムとなっている。CUとDUの間は空洞で大きく空いている。韓国仕様の基地局だというが、1.28Gbpsのデータレートをスマホ上に示している。

Nokiaがデモしたコンパクトな基地局は、全て同社製のC(Closed)-RAN(Radio Access Network)仕様で、Ericssonや華為科技と競ってきた。しかし、今後はC-RANからO(Open)-RANに向かっており、RUとDUの間のインターフェイスをO-RAN仕様で作ることが今後の基地局の製造法となっている。このため、RU部分はNEC製、DU部分は富士通製、CU部分はNokia製といった構成が可能になる。O-RAN仕様への動きは、今後の5Gのミリ波基地局がこれまでとは違い、大量に設置する可能性があるために、それに備えることにある。O-RAN仕様でもNokiaは存在感を高めている(参考資料1)。

さらにこれからの5Gはより高周波化、すなわちミリ波へと向かう。これまでの5Gは、サブ6ギガ(6GHz未満)の周波数を使う第1世代であり、高速のデータレートや低遅延はさほど期待できない。これからの5Gはミリ波へと進む、と日本法人CTOの柳橋達也氏は述べる。米国ではVerizonが28GHzのミリ波(厳密には準ミリ波)を使ってピークデータレート1815 Mbpsすなわち1.8Gbpsを達成しており、サブ6ギガでは50 Mbps程度しかないという。それも従来のサブ6ギガでは、シャノンの理論限界に近づいているとして、より広い帯域を確保するため更なる高周波化が必要とし、ミリ波移行は必然だという。

ミリ波における有利な点は、データレートの大容量化だけではない。サブキャリア(準搬送波)の送信間隔をもっと狭く詰められるようになるため、遅延が短くなると共に、位置情報の精度が上がる。これによって、工場内の無人搬送車や人の位置を正確に知ることができる。ミリ波で物体の位置精度の向上からさらに鮮明ではないがイメージングにも利用できる。5Gの本命はミリ波であり、2030年ごろの6Gとなるとミリ波からテラヘルツ波への拡張も現実味を帯びてくる。つまり6Gになると、物体の位置精度の向上とイメージング技術が使われるようになり、これまでの通信技術から応用が一段と広がっていくようになる。

参考資料
1. Nokia accelerates availability of Open RAN technology to lead the open mobile future (2020/07/07)

(2020/10/21)
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