セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

IBMが量子コンピュータを15台持っていることを明らかに

IBMが量子コンピュータをすでに15台設置しており、その稼働率が97%を超えていることを明らかにした。昨年12月に量子コンピュータ「IBM Q System One」を東京大学に納入し、2台目を今年中に設置する。量子コンピュータを東大で使ってもらい、さまざまな応用に向けた実験を共同で行う。

IBMの量子コンピュータは、カナダのD-Waveの量子アニーリング用と違い、ゲート式の量子コンピュータである。量子力学の重ね合わせの原理を利用することで、1と0を瞬時に入れ替えて並列演算できることが最大の利点だ。応用という意味で、超並列のニューラルネットワークマシンを利用する機械学習・ディープラーニングと似ている。しかし、瞬時に1と0を入れ替えられる点で、AIよりも高速に演算できる。


Gambetta's Law

図1 量子コンピュータを実用に近づけるために必要な量子ボリュームは年率2倍で成長するガンベッタの法則をIBMが提唱


ただし、演算性能を上げるためには量子ビット数を上げなければならない。例えば1ビットなら、1か0の二つの状態しかとれないが、10ビットだと1024の状態にもなる。デコードするための多数の配線が必要になるため、マイクロ波パルスで状態を制御しているという。また量子ビットが明確な状態を維持する時間(コヒーレント時間)を数十µsから数msへと長くし、かつ読みとりエラーをいかに減らすかが実用化には避けて通れない。このための指標となる「量子ボリューム」は毎年2倍で増えていく、という半導体のムーアの法則に似たGambetta(ガンベッタ)の法則を適用しながら性能改善に努めている(図1)。量子ボリュームに含まれるパラメータは、量子ビット数やノイズ量、コヒーレント時間などだとしている。今のところ、年率2倍で量子ボリュームは増えている。

IBMが東大と提携したのは、東大を含め、日本企業も同時に巻き込んで、応用だけではなく、将来の量子コンピュータを製造する上でのパートナーシップを組みたいためだ。日本は材料やデバイスに強いため量子コンピュータの均一性を上げ、性能を上げることができるとしている。

IBMは世界中の顧客と応用や開発をコラボレーションするため、エコシステムIBM Q Networkを2017年に構築、日本の慶應大学がIBM Q Systemを使えるようになっていた。しかし、このマシンは米国にあり、慶応大学はネットワークを通じてアクセスしていた。今回東大との提携で日本にもIBM Q System One(図2)を置くことで日本の研究者が専用に使えるようになる。ただし、正式契約はこれからであるため、東大構内のどこに設置するのかは検討中としている。また、この量子コンピュータを使うパートナー企業は10社程度が候補に上っているという。東大に置く量子コンピュータが稼働するようになれば、慶應大とのパートナーシップについても見直し、一本化したいという。


図2 IBMの量子コンピュータIBM Q System One 出典:IBM

図2 IBMの量子コンピュータIBM Q System One 出典:IBM


現在設置されている量子コンピュータの量子ビット数は20ビットだが、ノイズを減らしたりコヒーレント時間を延ばしたりするなどして量子ボリュームを増やす研究を重ねているとしている。1と0を表す基本的なスイッチング素子は、超電導材料を絶縁体で挟んだジョセフソン接合素子だという。かつて超電導コンピュータでジョセフソン素子を作成していた経験があり、その技術を量子コンピュータに活かしている。量子状態を得るために10〜15mK程度まで冷却している。

IBMの15台の量子コンピュータは、IBM Q Networkには101団体のパートナーを持っており、20万人のユーザーが登録している。ユーザー数は急速に増えているという。これまでにIBM Q System One量子コンピュータ上で実行された演算数は1400億回を超えているとしている。量子コンピュータの活用分野は、創薬開発やゲノム医療、新材料開発、リスク解析など機械学習・ディープラーニングとよく似た分野となる。ただし、同じ並列演算といっても演算速度が極めて速いことが特長だ。

(2020/02/21)

月別アーカイブ