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半導体ICパッケージは5Gミリ波用にはAiPへ

半導体ICパッケージが大きく変わりそうだ。5G(第5世代の携帯通信技術)には、アンテナをICパッケージの上に設置するAiP(Antenna in Package)技術を採用することになりそうだ。それも高周波(RF)回路のICやアンテナ周りをテストするための方法として、OTA(Over the Air)技術を使う可能性も出てきた。

図1 National Instruments主催のNIWeek 2019の展示会場風景 NIWeek 2019会場にて撮影

図1 National Instruments主催のNIWeek 2019の展示会場風景 NIWeek 2019会場にて撮影


National Instrumentsが主催するNIWeek 2019(図1)最大のトピックは、5Gミリ波通信の半導体テスターだったが、このトピックに付随して、RF ICのパッケージが大きく変わりそうだ。このAiPに関する話題が半導体テスターのトピックとして沸騰した。業界関係者によると、台湾のファウンドリであるTSMCや、OSATであるASEが、その設計にすでに取り組んでいるという。

5Gはこれから本格的なミリ波時代を迎える。周波数が24GHzないし28GHzから、39GHz、さらには60〜70GHzへと向かうこれからのミリ波時代こそ、20/10Gbpsを享受できるようになる。サブ6GHzでは10Gbpsは到底望めない。ミリ波時代にはICパッケージの上にアンテナ素子が載ることになる。

ミリ波とは波長が1mmにまで短くなる電波を指す。光の速度は3×10の8乗m/秒であるから、厳密には1mm波長は30GHz以上になる。かつては30GHz未満の周波数を準ミリ波と言ったが、最近では24GHzもミリ波という表現をとることが多い。

アンテナは、電波を共振増幅する装置であるため、波長、あるいは1/2波長、1/4波長といった長さで、共振器として設計してきた。3GHzなら1cm、300MHzだと10cmとなる。これまではICで使われている数mmの長さよりもずっと長く、ICのサイズとはかけ離れていた。

ところが、ミリ波となるとICで実現するサイズとほぼ同じになってくる。そうなるとRF ICチップのパッケージ上にアンテナ素子の形成が可能になる。効率良くミリ波をアンテナで増幅、さらにパッケージ内のRF回路でも増幅することができる。ミリ波のアンテナ設計では、小さなアンテナ素子をアレイ状に並べた平面アンテナを使う。このアレイ平面アンテナをICパッケージの上に並べるのである。

従来の携帯電話の電波だと360度全方位に飛んでいたが、ミリ波のように電磁波の周波数が高くなると、電波は直線的に飛ぶようになる。このため、携帯端末と基地局とは平面アンテナを端末の向きに変えなければならない。これを各アンテナ素子から発射される電波の振幅と位相を変えることで実現する。これをビームフォーミングと言い、平面アンテナを固定したまま、ビームの向きを端末に応じて変えることができる。

ビームフォーミング技術は実は防衛技術の一つであるレーダーから来ている。昔のレーダーは電波の向きを変えて360度カバーするためにアンテナをぐるぐる回していた。機械的な回転体は風雨にさらされると、さびや汚れなどの影響で回転がスムーズにいかなくなることが多く、信頼性が悪い。このため最近の防衛兵器などではアレイ状の平面アンテナとビームフォーミングによって、回転させないレーダーに代わっている。このアンテナ素子を5Gのアンテナとして、RF ICのパッケージ上に形成するのである。

ビームの振幅と位相を瞬時に次々と変えるためにはロジック回路が必要になる。実用的にはデジタルのロジックLSIで制御する。端末が複数台一斉に通信するとなると、ビームフォーミングはそれぞれの端末に向けたビームの形を時分割などの技術で切り替えていく。どのようにして切り替えるか、その最適な切り替え方のアルゴリズムの開発も必要になる。


図2 16本のアンテナ素子からの16の信号を送受信するためのテスト法をNIは考案、実施している NIWeek 2019会場にて撮影

図2 16本のアンテナ素子からの16の信号を送受信するためのテスト法をNIは考案、実施している NIWeek 2019会場にて撮影


アンテナをICパッケージに形成した例を、今回見ることができなかったが、NIは16個の送受信信号を確認するためのRF IC用のテスト治具を開発している(図2)。ミリ波の信号発生器や受信器を試作開発している。

AiP時代になると、ICのテスト法も変わり、これまでのプローブを電極に当てる方法ではなく、プローブの電波を飛ばすOTAによってワイヤレスでテストすることになりそうだ。OTAのテスト法は、これから半導体産業でも通信産業でも必須になる。

(2019/05/28)

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