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5G無線通信はなぜ半導体メーカーにも影響を及ぼすのか(1)

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一部すでにサービスが始まっている5G無線通信だが、米国と北東アジア(中国・韓国・台湾・日本)を中心に大きな成長が見込まれている。大手通信機器メーカーのスウェーデンEricssonはこのほどMobility Report 2018の最新版を発行、2024年には中国がモバイルデータのトラフィック量で世界一の29 EB(1エクサバイト=約100京バイト)/月になるだろうと予測する。

地域毎のモバイルデータトラフィック 北東アジアのモバイルデータトラフィックは2024年に月当たり39EBに達する

図1 2018年と2024年の月当たりのモバイルデータトラフィック 出典:Ericsson


5Gの特長は高速データ速度、低レンテンシ、多様デバイス

これまで、先進国では幹線に光ファイバ網を敷設、ラストワンマイルはDSLやケーブルテレビ回線などを利用してきた。ところが、急速に経済発展してきた中国は、光ファイバをスキップして、いきなりモバイルブロードバンドに力を入れている。5G通信は最大ダウンリンクが20Gbps、アップリンクが10Gbpsと極めて高速だ。これは、一人が使うときの容量ではなく、みんなで動画のような重いデータをアップしたりダウンしたりするためにはこれだけの容量が必要になることから開発が進められている。特にオリンピックや大きなコンサート会場などのイベントでは、スマートフォンで映像を撮影し、そのままSNSやYouTubeにアップするケースが増えてきた。これまでのLTEでは回線がパンクしてしまう恐れがある。

Ericssonは2024年に北東アジアが39EB/月のモバイルデータトラフィックを利用し、そのうちの29EB/月が中国になると見ている。中国の次が北米で19EB/月と予測している。実は米国でも領土が広いため光ファイバの比率はそれほど高くなく、モバイルブロードバンドへの期待が大きい。

5G通信の特長はデータレートだけではない。基地局からセルラー通信端末までの時間遅れ(レイテンシ)が1ms以内というリアルタイム処理も要求されている。これはモバイル端末からの電波を直接受ける基地局(通信業者はここをエッジと呼ぶ)から、幹線基地局であるコアシステム(交換機の機能を低コストで高度に行う)を経てクラウドにつながっている(図2)。通信業者がエッジを強化するということは、基地局と端末との間のレイテンシが極めて速くなることを意味する。コアシステムは端末系基地局ほどの数は必要がないものの、コアシステム同士は光ファイバでつながれることになる。


エリクソンの5Gプラットフォーム

図2 スマホやIoT端末とつながっている基地局(Radio System)から応用ごとにネットワークをスライスし、5Gコアシステムを経てクラウドに送り出される 出典:Ericsson


5G通信の三つ目の特長は、これまでの1〜4世代(1G~4G)の通信は携帯電話を対象としてきたが、5Gは携帯電話やスマホだけではなく、IoTやクルマ、家電機器などさまざまな機器とも無線通信でつなげていくことだ。もちろん、IoTや家電製品のデータレートは十分遅くても良い。このためIoT専用の回線であるLPWA(Low Power Wide Area)やLoraWAN、Sigfoxなどの回線に加え、セルラー回線もIoTの遅い回線を共有することになる。その場合は、例えば通常は1チャンネルしか載せない20MHzの周波数帯域幅に20kbpsのIoT回線(1チャンネルのIoT帯域が20kHz弱)として理論上1000チャンネル分を載せることができる。

携帯電話以外のデバイスも5Gに

周波数が上がるのにつれ、電磁波は360度の全方位に向けて発射せずに指向性を持つようになる。30GHz以上のミリ波(波長が1mm以下の電磁波)レーダーは、この性質を利用して対象物の有無を検出する。基地局はさまざまな端末に向け、送受信する訳であるため、基地局の数や基地局間の電波到達を補完するスモールセル数も極めて多くなる。ミリ波に進むにつれスモールセルの数は爆発的に増えることになる。

当初は、サブ6GHzと言われる、3.5GHz帯、4.5GHz帯の電波を利用するが、総務省は28GHz帯についても割り当てを予定している。さらに39GHz、60GHzや70GHz帯も2020年代を通してシステムが構築されていく。5Gはいわば、基地局のビッグバン状態となるのである。だからこそ半導体にとって大きな市場が開けることになる。ではどのような半導体が使われるようになるか、次回は半導体市場を考察していく。

(2018/12/28)

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