Xilinx、クラウド上のFPGAをプログラム可能に

図1　Xilinx社Software/IP Products担当シニアディレクターのRamine Roane氏

FPGAは、自分で好きな回路を設計できるハードウエアデバイスである。ただし、その回路規模が大きくなりすぎると、フレキシビリティが失われ、他には全く使えない専用回路にならざるをえなかった。このため、制御やある程度固まっている機能はCPUとソフトウエアで行い、標準化できない回路は独自にFPGAで設計する方式を使う例が多かった。ある意味、これは組み込みシステムそのものであり、このままエッジで使える。

Xilinxは、FPGAのユーザがこれまでのハードウエア設計者、組み込みソフトウエア開発者から、さらにアプリケーションソフトウエア開発者まで対象を広げ始めた。従来のハードウエア設計者はコンポーネントレベルであり、5万人いる。そして組み込みシステムのエンジニアはSoCとFPGAエンジニアを合わせて10万人いる。さらに、FPGAの潜在ユーザを5年以内に5倍に増やそうという目標を掲げた。それがアプリケーションソフトウエアエンジニアの25万人である。ここではユーザが、エッジにせよクラウドにせよソフトウエアスタックを開発する場合に、FPGAにアクセスできるように図る。このための開発ツールをSoftware-Definedな開発環境と、同社Software/IP Products担当シニアディレクターのRamine Roane氏は呼んでいる。

こういった背景には、ITのメガトレンドの一つであるクラウドの進展がある。企業向けコンピュータはこれまでオンプレミスと呼ばれる企業が持つ独自のシステムから、クラウドへとシフトしてきているのだ。クラウドも、これまでの企業向けプライベートクラウドから、AmazonやMicrosoft、Googleなどのパブリッククラウドへのシフトも進んでいる。クラウドを利用して、例えば機械学習の演算を高速化する場合、FPGAで再構成可能なアクセラレーションスタックとしてFPGAにアクセスできるようにする。そうするとFPGAを使ったアクセラレータをソフトウエアエンジニアも利用でき、効率の良い機械学習アルゴリズムを実行できるようになる。まずAmazonのAWSクラウドでは、AFI（Amazon FPGA Instances）をXilinxが創り上げ、AWSの利用者がFPGAを書き換えられるようになった。

幸い、Amazon、Google、百度、Tencent、Microsoftなどパブリッククラウドを運営するサービス業者は、クラウドの物理的なコンピュータであるデータセンターにFPGAを導入している。CPUでは遅いが、ユーザ独自のアルゴリズムを高速に処理するためにはハードウエアのFPGAが最適だからだ。IntelがAteraを買収したのも、ソフトウエアで処理すると時間がかかりすぎる回路をFPGAで作ってしまいたいユーザのためだ。

Xilinxは、FPGAによるクラウドアクセラレーションのモデルとして4社の事例を挙げた。音声認識や自動運転のための対象物認識に機械学習の推論機能では、中国のDeephi社はCPUに対して40倍の高速性を示したという(図2)。またビデオコーデックの米NGCodec社のビデオストリーミングのリアルタイムのエンコーディング/デコーディングに同10倍の性能を得ている。検索やデータ解析の米国Ryft社は、ログファイルクエリのビッグデータ分析では従来のCPUだけだと60時間かかったのに対して40分で済むという90倍の高速性を示した。

図2　FPGAをクラウド上で使えるようになり作業が大幅に高速化　出典：Xilinx

さらにゲノム解析ではEdico Genome社は従来33時間かかったゲノム解析を20分で済ませる100倍の性能を得ている。Roane氏は、重症の障害のある新生児の治療を決めるために全遺伝子を解析する必要があるが、これまでは解析に1日以上かかっていたが、これを20分に短縮できたため、治療への取り組みが容易になったと語っている。